コロナ禍で外出できない福祉施設の利用者向けに、トラックでの“出張イチゴ狩りサービス”を開始!

公開日:2022/3/31

コロナ禍で外出できない福祉施設の利用者向けに、トラックでの“出張イチゴ狩りサービス”を開始!

色・艶・甘み・香り・サイズ、そしてよろこび…すべてを兼ね備えた銘柄イチゴ『美人姫』を13年もの年月をかけてつくり上げた、奥田農園株式会社(岐阜県羽島市)の奥田美貴夫氏。地元の方々だけでなく、全国からひっきりなしに入る注文に対応する奥田氏のもとに、福祉施設の職員から「コロナ禍で利用者さんがレクリエーションに出かけられずにいる」という話が届く。今回は世界でも類を見ない、トラックを使った出張イチゴ狩りサービスをスタートさせた奥田氏にその裏側を伺ってきた。

「どうにかイチゴ狩りを…!」という相談を受け、あたためていたアイデアをカタチに

新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の発令や外出制限で、多くの人たちが生活における“楽しみ”から距離をおき、粛々と過ごしていた2020年。奥田氏のもとにある福祉施設の職員から相談が寄せられた。「ご利用者を守る立場にある人間としては、感染リスクが高まる行動は控えさせなければいけない。でも、それを徹底することでレクリエーションの機会がまったくなくなってしまった。奥田さんのところで、どうにかしてイチゴ狩りをさせてあげられないか──というものでした。実は私は以前から、足腰が悪く外出が難しい人にもイチゴ狩りの楽しさを味わってほしいと考えていて、出張サービスに関するアイデアをあたためていたんです。相談を持ち掛けられたとき、“これを実行するのは今だ!”と思い、すぐに新事業を立ち上げました」と奥田氏は当時を振り返る。ちなみに奥田農園自体は早くからインターネットショップでの販売に力を注いでいたため、コロナ禍でも収益が落ちることはなく、むしろ増収したそう。「おうち時間が増えたことで“おいしいものが食べたい”と私たちのイチゴやジャムやアイス、ジュースなどの加工品をご注文くださる方が増えました。奥田農園というと1粒5万円の桐箱に入った『美人姫』のイメージがあるかもしれませんが、たくさんの方においしさを楽しんでいただけるように手軽な価格帯の商品も多く用意しているんですよ」と奥田氏は教えてくれた。

コロナ禍で外出できない福祉施設の利用者向けに、トラックでの“出張イチゴ狩りサービス”を開始! 「どうにかイチゴ狩りを…!」という相談を受け、あたためていたアイデアをカタチに

コンセプトは“玉手箱”。こだわりの内装で臨場感を演出し、夢のイチゴワールドを実現

出張イチゴ狩りサービスに使用するのは、このために改造した4トントラックだ。奥行5メートル・幅2メートルのコンテナ内の両サイドに3段の棚を配置し、『美人姫』が実った120個のポットを並べた。「私はオリジナルのアイデアを考えるのが好きで、イチゴを使った加工品も全て自分で考案しました。出張イチゴ狩りに使用するトラックも、“玉手箱のような空間”をコンセプトにゼロベースで考えていきました。ただイチゴを並べるだけでなく、天井には青空、壁にはイチゴ畑の写真を貼って臨場感を演出。『美人姫』を使ったジャムやアイスクリームも用意して、農園に遊びに来たときと同じ楽しみ方ができるようにしているんですよ」と奥田氏。トラックに大きく描かれているイチゴのイラストも自身で作成。元気でポップな仕上がりに満足しているそう。「ヒントとなったのはトラック野郎が主役の映画。ギンギラギンとは言いませんが、パッと見で“奥田農園が来た”と分かるものにしたかったんです。ちなみに車のナンバーは“15(イチゴ)”。細部までとことんこだわりました」と奥田氏は笑顔で語っていた。

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1,000万円かけた専用トラックで、おいしさと笑顔を届けるために自らハンドルを握る

出張イチゴ狩り用の『美人姫』を2,000個のポットで栽培。完全予約制で1日1施設限定、費用は施設が負担する距離に応じた出張代と1人あたり3,000円(税込)の利用料となる。「皆さんのよろこぶ顔を見るために、施設へは自分で運転して向かいます。パワーリフトがついている上にコンテナ内も広々としているので、車椅子の方も参加できるのもポイントのひとつ。1人あたり20~30分と時間は限られていますが、糖度13度以上の甘いイチゴを笑顔で食べているご利用者さんの姿と、“おいしい!”という声は生産者冥利に尽きるというもの。設備投資にトータルで1,000万円ほどかかりましたが、楽しみにしている方のことを想えば痛くはありません。コロナ禍で暗いニュースが多いですが、明るい話題で世の中を元気にできればと思います」と奥田氏は意気込んでいた。

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日本の農業をもっとおもしろくするために、イノベーションを起こしつづける

他に類を見ない独自の取り組みは想像以上の注目を集めており、とある大企業から相談を持ち掛けられたこともあるそう。「ある日、自分の会社でもやってみたいという連絡が入り、コンサルタントのような感じでアドバイスをしました。イチゴ農家に転身して48年。今回の出張イチゴ狩りだけでなく、おいしいイチゴがいつでも買える自動販売機をつくったり、最高級ランクだと1粒5万円もする商品を生産したり、市場を通さずに自分自身で価格を決めて販売したり…と、新しい取り組みをどんどん行ってきたのは、すべて農業を元気にするため。最近はいろいろな業界でAIがもてはやされていますが、ロボットには不可能な人間にしかできないことをしてこそ仕事が楽しくなるというもの。日本の農業が若者にもおもしろいと思ってもらえるように、これからもチャレンジしていきます」と奥田氏。熱い信念をもとにイノベーションを起こしつづける奥田氏の活動に、これからも注目したい。

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