東京への飲食店を出店し、『峠の釜めし』を“非日常”から“日常”に。コロナ禍でありながら、新しいファンを獲得!
公開日:2022/3/31

明治18年に群馬県横川駅で創業した荻野屋は、当時、駅弁としておむすびの販売を行っていた。同社の主力商品である『峠の釜めし』は、昭和32年に4代目が考案。陶製の器を使用し温かいまま提供するという、常識を覆すアイデアで瞬く間に日本を代表する駅弁となった。発売開始から70年近く、多くの観光客の旅の思い出に彩りを添えてきた同社だが、他の観光業同様に新型コロナウイルスの感染拡大の影響で大きな打撃を受ける。このようなタイミングで有楽町に新業態となる飲食店「荻野屋 弦」(東京都千代田区)をオープンした想いと今後の展望を、首都圏事業部・次長である浦野恵造氏に伺った。
コロナ禍による観光客の減少が大きな影響を及ぼし、売上が最大90%ダウン
荻野屋のルーツは、群馬県と長野県の境にある碓氷峠近くの小さな温泉旅館。信越本線が開業することを知った創業者が国鉄に掛け合い構内営業権を取得。明治18年、横川駅の近くで弁当業をスタートさせたのだ。それから100年以上たった2019年、群馬・長野エリアを中心に事業を展開していた荻野屋を新型コロナウイルスの感染拡大が襲う。「駅弁の販売からスタートした私たちですが、モータリゼーションの進展に伴い、ドライブインや高速道路のサービスエリアにも出店。家庭用自動車でのドライブやバス旅行のお客様をターゲットに、事業を拡大してきました。しかし、近年『峠の釜めし』を愛してくださるお客様は徐々にご高齢化しており、若年層へのアピールが当社の課題でした。そのような中で、コロナ禍による観光業の不振で大きな打撃を受け、売上が最大90%ダウンという厳しい状況に。2017年にGINZA SIXにオープンした店舗と、2019年に東京の八幡山に店舗兼工場をオープンしたりと、販売拠点を増やしておりました」と浦野氏は教えてくれた。

“非日常”だけでなく“日常”にも目を向けることで、これまでとは異なる層の顧客を獲得
上信越道・長野インターチェンジ近くでドライブインとして運営していた『おぎのや長野店』が2021年9月、24年の歴史に幕を閉じた。「以前から旅行スタイルの変化によるバスツアー客の減少が問題視されていた中で、コロナ禍の影響が閉店の引き金となった形です。しかし、実は私たちはGINZA SIXへ出店した頃から旅行という“非日常”だけでなく、“日常”にも目を向けた戦略を立てるようになっていて、古き良き時代の経営スタイルからの脱却を図ってきたんです」と浦野氏は語る。つまり、旅先で『峠の釜めし』を食べる“非日常”での利用だけでなく、お客様の普段の生活という“日常”の中に荻野屋が入り込んでいこうと考えたのだ。「旅行スタイルの変化、お客様のご高齢化、この2つの課題を改善するための戦略です。GINZA SIXと八幡山への出店は、お客様とのタッチポイントを増やすための挑戦でしたが、しっかりとした効果を上げることができたと感じています。そして新型コロナウイルスの感染拡大から1年後の2020年、JRの開発担当の方から有楽町の高架下への出店のお話をいただきました」。

群馬・長野と東京を結ぶことをテーマに、有楽町に新店舗をオープン!
新型コロナウイルスの影響が大きかったのは、荻野屋だけではない。群馬県や長野県の観光客の減少は、地域の飲食店や生産者にも大きなダメージを与えつづけてきたのだ。「お客様の“日常”に入り込むと同時に、私たちはこの新店を通じて“地元も応援したい!”と考えました。店内は立飲みスペースとお弁当類のテイクアウトコーナーで構成。『峠の釜めし』はもちろん、群馬や長野の食材を使ったお惣菜をご用意。地元の方に長年愛されてきた地酒や、評判のクラフトビールもラインナップしました。上州牛を使ったローストビーフはとても好評で、昨年はクリスマスの時期にテイクアウトでのご利用も多くありました」と浦野氏。2021年3月26日のオープンから約1年── 『荻野屋 弦』は“日常の中での荻野屋”というポジションを確立できたのだろうか。「コロナ禍ということもあり、100%イメージ通りというわけではありませんが、たくさんのお客様に愛される店になっていると感じます。平日は近隣で働かれている30~40代の男女、休日はショッピングを楽しまれているお客様やご家族連れ、ご年配の方などがメイン。コロナ禍で帰省できずにいるという群馬出身の女性が来てくださったこともありましたね」と浦野氏は笑顔で教えてくれた。

伝統を守りながら変化・チャレンジすることで、150年、200年…と愛される企業に
『荻野屋 弦』につづき、2021年10月には東京・笹塚に『OGINOYA OHACO』をオープン。釜めしや“日常”の食卓を華やかにする多彩なお惣菜の販売を行っている。「その他にも子どもだけでなく、大人の間でも人気のアニメともコラボし、特別パッケージの『峠の釜めし』も期間限定で販売しました。東京で私たちの味を楽しんでくださった方たちが、今の生活が終わったときに“群馬や長野に行ってあの味を楽しもう!”と思ってもらえたら本当にうれしいですね」と浦野氏。最後に東京という街にフィールドを拡大し、新規事業を展開する同社の今後のプランについて伺ってみた。「今年で創業から136年を迎える私たちですが、目指しているのは150年、200年と長く愛される存在。そのために、これからも伝統を守りながらも変化・チャレンジしていきたいと考えています」。創業者の“フットワークの軽さ”と、4代目の“世の中にないものを創造する力”を企業のDNAとして受け継ぎながら、荻野屋はこれからも進化しつづける。
