プロジェクトが始動したのは、2019年2月。そこから約1年かけてオープン準備を進めてきたが、新型コロナウイルス感染拡大により、提供スタイルから練り直しになった。それまでは、ステーキなどの本格的な食事を楽しめるレストランをオープンするための準備を進めていたが、コロナ禍によりテイクアウト中心に方向転換を余儀なくされた形だ。店内に集客するのではなく、テラス席や公園の芝生に座り、おいしいホットドッグを召し上がっていただく。そんなイメージを持ちながら、再出発を図ることになった。

年間約270万人が利用するという木場公園。そのポテンシャルに期待し、様々なカルチャーとコラボした独自イベントの企画を100本以上準備し、「どのように集客するか」に念頭を置いてきた。しかし、コロナウィルス感染拡大により「三密の状態を作らず、安心して施設をご利用していただく」というまったく異なる方向に舵を切ることになった。そんな中で、プロジェクトメンバーの安藤氏・古木氏・藤元氏が着目したのが、非接触式（NFC）プラットフォームを活用したテーブルオーダーシステムだった。

スマートフォンをかざすだけで、個人認証や場所の特定、決済などができるシステムは、もともとホテルなどの宿泊施設で導入されていて、チェックイン・アウト、キーロック、決済などのタスクをスムーズにするなど一定の効果を発揮していたが、飲食店での導入実績はなかった。そこで、システムの開発会社に「飲食店運営に応用したい」と、カスタムオーダーを依頼。各テーブルに設置されているNFCシールにスマートフォンをかざすだけで、手元の画面操作のみでオーダーから会計までを完了することができ、あとはカウンターで商品を受け取るだけ。これにより、人と人との接触機会を減らし、感染リスクを抑える仕組みを実現した。

さらに、このシステムが優れているところは、専用アプリを使うことで、店以外の場所からもオーダーすることができる点だ。これにより、テイクアウトを希望するお客様の行列がなくなり、キッチンスタッフは調理に集中することができる。受け取りの時間指定も可能で、調理の進行状況がスマートフォンにリアルタイムで表示されるため、現地での待ち時間が発生しないのも魅力。一方、厨房でも機器端末に注文内容が表示されるだけなので、導入にあたって特別な知識は必要なく、研修なども不要だったという。

このシステムの存在を知ったのは、不動産テクノロジー系の開発イベントに出席したことがきっかけだった。顔認証システムやスマートロックなど、最先端システムの動向には常日頃からアンテナを張っていたことが功を奏した形だ。さらに、もともとキャッシュレスシステムの導入を考えていたところに、今回のコロナ禍。既存のシステムを応用する柔軟な発想を持つことができたのも自然な流れだった。今後、同システムは多くの普及が見込まれるが、導入費用は親機の費用が3万円（レンタルは月額1500円）、既存のレジや厨房との連携を行う専用管理システムやアプリの導入費用が月額980円。機能を拡張する場合など、カスタマイズには別途費用がかかるが、比較的安価で導入できることも魅力だ。

混雑緩和、接触機会軽減など、様々な課題を乗り越えて無事にオープンを迎えた「KIBACO」。コロナ禍で遠出ができず、近場の公園で過ごす人が増えたこともあり、初日からたくさんのお客様が集まった。お年寄りの方がスマートフォンを操作して注文をする姿もあり、システムを利用した注文も徐々に増えている。「テレビやメディアからも注目されており、今後は利用の場がさらに増えていくだろう。」と、プロジェクトメンバーの3人は期待を口にした。