お客様を、地元を、“おいしい、たのしい、うれしい”笑顔でいっぱいにしたい——30年以上変わらない想いを箱に詰めて届ける体験キット。
公開日:2022/12/27

自然のなかで農作物を育て、自ら調理することで、“食”を体系的に学べることができる食育体験ファーム「ほっこり農園」(福岡県岡垣町)。新型コロナウィルスが猛威をふるい始め、日本中が未知のウィルスへの対応に頭を抱えていた2020年5月、「ほっこり農園」を運営する株式会社グラノ24Kは「体験がネットで買える」をコンセプトとした「冒険まるしぇ」の企画をいち早くスタートさせていた。そこには、おうち時間の充実化だけでなく、食育や文化継承、なにより「地元の生産者を笑顔にしたい」といった地域への思いが込められていた。同社で商品開発を担当する吉田雅子氏と、オンライン体験教室でも活躍する“らっちょ先生”こと、相良友香氏に詳しい話を伺った。
すべては地元生産者を元気にするため。畑や海の都合に合わせたメニューが並ぶ、地産地消のビュッフェレストラン。
「ほっこり農園」を運営する同社は、岡垣町を本拠地に飲食店や宿泊業、ブライダル業などを展開する企業である。事業形態は多岐にわたるものの、根底にあるのは「地元とともに」。“食”を通して地域全体が活性化し、ひいては農家や漁師など地元生産者を笑顔にすることを信念としている。それをまさに体現したのが、2001年に同社が開業したビュッフェ形式のレストランだ。「弊社の前身は、岡垣町の海辺に建つ小さな旅館です。代表の小役丸が経営を引き継ぎ、地元生産者から食材を仕入れるなかで、さまざまな問題を目の当たりにしました。献立ありきで材料を仕入れる懐石料理では生産者に負担を強いること、規格外の作物は破棄せざるを得ないこと。それらを解決するための打ち手が、ビュッフェスタイルのレストランでした」と吉田氏は教えてくれた。ビュッフェであれば、規格外でも少量多品種生産でも有効活用できるため、生産者の作物をすべて買い取ることができる。たとえ単一素材が大量にあっても調理法を変えればメニューはバラエティに富む。しかも、地元の新鮮な食材を使った料理は利用客にとってもうれしい——。そう、今ではすっかり一般的となった「地産地消」の“はしり”である。

地産地消から6次産業化、そして循環型農業へ。常に時代の先をゆくイノベーティブ企業が手がける食育体験ファームとは?
同社は「ぶどうの樹」を通じて次第に、「地産地消はもちろんだが、より重要なことは『この地にあるもの、ここにしかないもの』ではないのか」ということに気づきはじめる。そこで、まずは添加物の少ないソーセージや天然酵母パンなど、“もの作り”を手がけはじめた。自分たちで作ってみると、今度は“素材を無駄にしたくない”という思いが強くなり、その結果、生ごみを循環する機械を導入し、循環型農業を目指した。それが2011年に開園する食育体験ファーム「ほっこり農園」誕生のきっかけだった。
「私たちが本気で農作物を作ることは周辺の農家さんにはメリットがありません。私たちがやるのは、あくまでも“食育”を目的とした“体験農園”なんです」と吉田氏。らっちょ先生も、「農園ではアスパラガスをメインに育てているんですが、これは農家さんから栽培も収穫も簡単だから、というアドバイスと、代表の小役丸の子供たちが収穫体験するのに楽しいのでは、という意見からなんです」。
収穫体験のほか、手作り体験も充実させた。グループ内の工房でのノウハウを活かしたウィンナーやパン作りだけでなく、火を使う手段を学べば、食べ物が作れることを学べる「フライパンdeピザ教室」、日本の伝統文化にふれる「旬の和菓子教室」など、防災や文化・風習の継承の観点も備えたプログラムとした。「基礎を作ったのは元小学校の教師である“のりぴー先生”で、子どもたちに学校や塾、家庭では学べないことを体験して欲しいという思いを反映したプログラムになっています。農園がオープンした2011年がちょうど東日本大震災が起こった年で、防災という観点も加えたそうです」と、吉田氏が教えてくれた。

各部署からあがったアイデアをスピーディにカタチに!体験キットは意外なところからの需要もあり好評
コロナ以前、グループ全体で年間30万人が訪れていた客足がコロナ禍でパッタリと途絶えた。「1日に何百件ものキャンセル電話を受ける予約係はもちろん、レストランや旅館が休館せざるを得ないため、農家さんに出荷をお断りして回る野菜担当者など、スタッフそれぞれが大きな精神的ダメージをうけていました」と、吉田氏は当時を振り返る。しかし次第に、社内のあちこちからさまざまな声が上がってきた。シェフが「野菜ポタージュを作ってはどうだろう?」というアイデアを出してくれたと思えば、今度はパン事業部から「ピザを冷凍にして宅配しては?」というアイデアが。らっちょ先生ら農園スタッフも自分たちができることはないか、と考えはじめた。そして導きだしたのが、いつもの体験をキットにして自宅に届ける「冒険まるしぇ」だ。このキットを通じて、いつもは買って済ませている加工食品を、手作り体験することができる。ウィンナーやピザ、豆腐など、グループ内に工房があるため地元食材などの材料はすぐ揃う。らっちょ先生が描いたイラスト付きの説明書や、無料動画サイトでの動画配信、オンライン体験教室と、キット購入者向けに、作り方を学べるシステムを3種用意。夏休みの自由研究向けに販売をしたことや、地元TV局が取り上げてくれたこともあり、「冒険まるしぇ」は好スタートをきった。さらに、意外なところからも反応があった。もともと個人向けであったが、イベントを開催できない子供会や、旅行に行けない企業や団体などだ。「イベントの代替品として、私たちの体験キットを活用していただきました」と、吉田氏。

収穫体験の充実や農業イベントの復活で農園に戻ったあふれんばかりの笑顔。これからもみんなの笑顔のために!
「冒険まるしぇ」はグループ内にもうれしい影響をもたらした。宿泊事業のひとつであるグランピング施設の宿泊プランに体験キットを付けると、たちまち評判を呼んだのだ。「好きなタイミングで、お部屋で自由に作れる手軽さが良かったようです。特に夏休みは家族連れのお客様に喜んでいただけました」。そう笑顔で語るらっちょ先生。さらに農園ではコロナ禍を機にアスパラガス収穫体験を本格始動。「それまではイベントで数日やる程度だったのですが、時間もあることだし、毎日やっちゃおう!と、提供を開始しました」とも教えてくれた。ハウス1棟につき1時間1組限定、手袋装着など感染対策を整えて実施すると、想像以上の反響に驚いた。収穫期間である3月〜10月の7カ月間になんと約600人。翌2021年には田植え前の水田で遊ぶ「どろんこ祭り」や稲刈り、芋掘りなど、月ごとの農業イベントも再開。「ほっこり農園」には人々の笑顔が確実に徐々に戻ってきている。
「コロナ禍は辛い日々だったものの、それぞれが店や部署のことを意識し、なにができるのかの考えるいい機会になりました。そして改めて思うのは、私たちは“食”を通してお客様を、地元の生産者を、そして地域全体を、“おいしい、たのしい、うれしい”笑顔でいっぱいにしたい、ということ。『ぶどうの樹』がオープンした1984年から変わらないことです」。吉田氏はそう力強く語ってくれた。
