コロナ禍で客足が遠のく中、「伝統」と「デジタル」を融合し、屋形船での新しい楽しみ方を提供するARアプリを制作!
公開日:2023/2/28
36の屋形船事業者が加盟し、安全な航行や利用船客へのサービスの向上、事業者の技術の向上を目指し、様々な活動を行っている『屋形船東京都協同組合』(東京都台東区)。新型コロナウイルスが感染症拡大の影響により、業界全体が大きな打撃を受けることとなった。そのような中で屋形船の新たな楽しみ方の1つとしてリリースされたのが、ARアプリ『お江戸の川遊びへおいでなんし』だ。
ピンチを“ビジネスモデルを変革するチャンス”に
飲食や観光業界同様、大きな打撃を受けた屋形船業界。コロナ禍前と比較すると予約が7-9割減という状態が2年以上つづいてしまう。
コロナまん延の当初より「密閉された空間」という誤った風評によりキャンセルが相次ぎ、その存続も危ぶまれるほど開店休業状態に。
感染者増加の報道のたびに入っていた予約がキャンセルとなり、第6波くらいまでこれを繰り返した。そのような中で今回の新しい日常プロジェクトでピンチをチャンスに変えられる機会を得た。NOFATE株式会社の協力のもと組合の若手経営者たちはお客様に“新たな価値”を付加した新しい「YAKATABUNE」の提供を模索している。

デジタルの世界の一員となり、現代にいながらも江戸時代の雰囲気を満喫!
そのような中で取り組んだのが、スマホやタブレットで江戸の町の庶民の様子や花火を見たり、江戸時代に実際に隅田川にいた魚を釣ったりできるゲームが楽しめるARアプリ『お江戸の川遊びへおいでなんし』の制作だ。屋形船は江戸時代からつづく文化であるが、実際に目で見て江戸と現代の融合を感じられるコンテンツの制作は、日本のお客様は基より、インバウンドにも説明なしでも楽しんでもらえる。このアプリ制作のヒントを探しに江戸時代の東京の雰囲気がわかりかつ可視化された展示物のある博物館にNOFATE株式会社の藤田さん、大阪の制作会社(株式会社ジーン)の曽根さんに何度も足を運んでいただいた。
インバウンド再開時を見据えて、外国人観光客向けのコンテンツも作成
ARアプリ制作にあたっては、前述の制作会社(株式会社ジーン)の担当者である曽根さんとNOFATE株式会社藤田さんの協力のもと進められた。
お客様のスマホやタブレットを船の中から川面に向けると、嘉永7年、黒船来航の翌年の時代設定で市井で活躍する江戸の船頭さんや武士、花魁、花火師など8種類、計50パターンの人物が画面に現れる。現代の隅田川やお台場の風景に融合して、江戸弁をまくしたてる船頭やなまめかしい花魁がこちらに声を掛けてくる。
かなりの人数が登場するが、実は顔に関しては5パターンほど!VRに比べ、AR制作はかなりの金額が掛かることかつ予算が限定的であったため、あえて一人ひとりを描き分けないことによって予算を抑えた。
また、このARアプリは海外からの観光客の受け入れ再開後に向けた工夫も施されている。アプリ内に登場する人物や景観を絡めたクイズや豆知識をターゲット層ごとにわけて作成し、楽しみを倍増させる仕組みを導入した。たとえば外国人向けには歴史的な知識や風習を学んだり、花魁とは何か、たまやとは何かといった疑問を解決したりできるリーフレットを作成。日本人観光客向けには撮影スポットや、歴史に関する豆知識を紹介。2021年の7月に制作をスタートした同アプリは、試行錯誤を繰り返しながら翌年の2022年2月に完成した。

これまでとは違う屋形船のスタイルで、新たなファンの獲得を願う
まるで江戸時代にタイムスリップしたような感覚が体験可能なARアプリ。
リリース前の2021年12月と2022年1月に事業者向け、一般向けと試乗会を実施。生の声やアンケート結果をベースに、クオリティをブラッシュアップさせるためのテストマーケティング期間を設けた。
天ぷらにお刺身、貸切船に花火、といった定番の屋形船のイメージを大きく変革する今回のアプリ制作は、今までの屋形船の楽しみ方に、プラスアルファで新たな顧客層のアプローチに役立っている。
令和の時代に突入した屋形船。
コロナ禍をかいくぐり、屋形船の業界がどの方向に舵を切っていくのか、興味深いところだ。
風流な屋形船を求める声も大事にしつつも、これまでとは違ったスタイルも取り入れた屋形船の新たなファンの獲得に、新しい日常プロジェクトが大きく後押ししていることは確かだ。