9割観光客相手の老舗土産物店が
「地元で愛されるカフェ」に挑戦する理由

公開日:2023/3/30

9割観光客相手の老舗土産物店が
「地元で愛されるカフェ」に挑戦する理由

コロナで大打撃を受けた業態はたくさんがあるが、飲食業界と観光業界は特にその影響が大きかった。湯河原の地で創業72年、駅前で土産物店や飲食店を経営する一福堂も例外なくダメージを受けたが、2022年の夏にこれまで同社が経営してきた店舗とは一線を画す業態として、コワーキングスペースを併設した「湯河原カフェ」をオープンした。コワーキングスペースにはフリーデスクだけでなく、テレビ会議用の個室も完備している。湯河原駅の駅前を守り続ける難しさや新たな挑戦について、同社代表の後藤友美氏に聞いた。

老舗土産店の新たな挑戦 地元で愛されるカフェを目指して

湯河原駅の改札を出て真っ先に目に飛び込んでくるのが、老舗の土産物店「一福堂」。運営する株式会社一福堂は昭和26年に創業し、今では湯河原駅前で4店舗を運営する、まさに湯河原の顔といっていい存在だ。
そんな一福堂が2022年8月に新しい試みとしてオープンした「湯河原カフェ」は、スタイリッシュな内装にコワーキングスペースを併設するなど、都心の雰囲気を感じさせるカフェだ。最新のエスプレッソマシンでカフェラテを出し、店内で焼く自家製のパンの良い香りが漂う。
「カフェの構想自体は2018年頃から考えていたのですが、コロナ禍が大きなきっかけになったことは間違いないですね。観光客相手だけの商売はいよいよ厳しくなったなと思いましたし、街をもっと盛り上げるためには、観光客だけじゃなくて地元の人にも愛されるお店を作らなきゃという思いがありました」と一福堂3代目の後藤氏は言う。「最初の緊急事態宣言の時は、経営する4店舗のうち駅前の土産物店を除く3店舗の休業を余儀なくされました」と後藤氏。元々9割が観光客だった一福堂にとっては、まさに経営危機と言って良い状況だったが、駅前の土産物屋だけは1日も休業しなかったという。「うちが閉めちゃうと駅が真っ暗になってしまう。駅前の店だけは、何があっても閉めちゃダメだ!って、先代である父がきめたことだったんです」と後藤氏は当時を振り返った。

9割観光客相手の老舗土産物店が
「地元で愛されるカフェ」に挑戦する理由
 老舗土産店の新たな挑戦
地元で愛されるカフェを目指して

リピートしやすい価格と味へのこだわり

とはいえ湯河原は、地元の客といえば圧倒的に年配の方々が多い。モダンな内装やカフェラテといった飲み物、何より併設されているコワーキングスペースはお年寄りとはなかなか結びつかない。
「これにはいろいろありまして(笑)。元々は都心にある外資系のコーヒーショップみたいなカッコ良いお店を構想していたんですが、コロナ禍によって地元を盛り上げる方向に思考がガラッとかわりました。そして、設計士さんに店舗の内装デザインを発注する段階では“お年寄りが一人でも入れるようなデザインにしてください”と伝えたんです。でも蓋を開けてみたら、スタイリッシュな内装に仕上がってしまって(笑)。最初はこれで地元の方が来てくれるか不安でしたが、営業を始めてみるとカフェラテを飲んだことのないおばあちゃんたちが、人生初のカフェラテを飲みにきてくれたり、毎日顔を見せにきてくれる人がいたり、結果的に地元で賑わう店になりましたね!」と後藤氏は笑う。
地元の人にリピートしてもらうために、値段はできる限り抑え、味はできる限り美味しくするように試行錯誤しているという。
「地元の方々に“あそこは値段が高い”というイメージがついてしまうとリピートしていただくのが難しいと思ったんです。だからできる限りコーヒーの値段は抑えています。だからって味も妥協したくないので、パンは全て自家製で、毎日お店で焼いています。コロナ禍の休業中に私がパン教室に通って勉強したことが生きています」と後藤氏は店舗運営のこだわりを語ってくれた。

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「地元で愛されるカフェ」に挑戦する理由
 リピートしやすい価格と味へのこだわり

1時間300円+ワンドリンク料で利用できるコワーキングスペース

併設するカフェで提供されているワンドリンク付きで、1時間室料300円+ワンドリンク料で利用できるコワーキングスペースも、湯河原カフェの特徴のひとつ。周りを気にせず電話やテレビ会議のできる個室も完備している。年配の方の多い湯河原で果たして需要があるのか、当初は後藤氏自身も不安だったというが、毎日利用があるという。
「実はまだお店のHPも用意していないのですが、どこからかうちのことを知ってくれたようで、お客様が来てくれています。毎日来る人もいるし、電話で予約してくださる人も、都内からわざわざ来ているんだろうなという人もいます」と後藤氏はコワーキングスペースの稼働状況について教えてくれた。
フリーデスクのスペースには、駅前の通りに面して大きな窓があるが、貸切でのポップアップショップなどに使用してもらおうという狙いがあるという。
「湯河原のエリアで一番人が行き交う駅前に、誰でもお店を出せるレンタルスペースがなかったので作りました。湯河原でお店をやってみたいという人に、ぜひ一度テスト的にでも使ってもらいたいなと思っています」後藤氏はその狙いについて語ってくれた。

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「地元で愛されるカフェ」に挑戦する理由
 1時間300円+ワンドリンク料で利用できるコワーキングスペース

従業員を大切にし、無理な事業拡大をしない!それが商売を長く続ける秘訣

固定観念にとらわれず、新しい挑戦をする一福堂には、湯河原の地を守るという創業から受け継がれている強い意志がある。コロナ禍の緊急事態宣言中、観光客で賑わっていた湯河原の駅前が閑散としても、駅前の土産物店だけはお店を開け続けたことがその現れだ。後藤氏は「商売で一番難しいことは、とにかく続けていくこと」だと言う。
「うちがなんで70年以上も続いているのかというのを、最近はよく考えているんですが、やっぱり、働いてくれる従業員さんたちに、いかにここが働きやすい職場だと思ってもらえるかが大切だなと思いました。湯河原カフェも、アルバイトのみなさんの若い力に助けてもらっています。アルバイトのみなさんが仲良くやってくれているのを見ると私も嬉しいですし、やっぱり働いてくれる方々を大切にすることが、商売を続けていく上で欠かせないことなんだなと改めて思います。うちは、とにかく湯河原の地を守っていく!っていう強い想いでここまでやってきました。他の地域に出店するとか、無理に拡大するくらいなら、その分をこの湯河原の地の活性のために活かす。そういう一貫した考えが、商売を長く続ける上で一番重要なことなのかなと、最近は思っています」と後藤氏は事業継続の秘訣を教えてくれた。

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「地元で愛されるカフェ」に挑戦する理由
 従業員を大切にし、無理な事業拡大をしない!それが商売を長く続ける秘訣