地元住民と観光客の安心を取り戻す!秋川渓谷の観光事業者によるコロナ対策を“見える化”。
公開日:2020/12/4

東京都心から西へわずか1時間ほどの場所に位置する「秋川渓谷」(東京都あきる野市)。美しい自然に囲まれながら、キャンプ・バーベキュー・釣り・山登り・温泉など、様々なアクティビティを楽しめる人気観光スポットとして、四季を通し多くの方に愛されてきた。
「川でBBQをしている人がいる。」 地元住民の不安の声。
緊急事態宣言後、最初の大型連休を迎えた5月上旬、五日市商和会会長である南元宏氏の不安は的中した。マスクもせずに川沿いでバーベキューを行い、ゴミを置き去りにして帰る。不要不急の外出を控えることが求められる世の中にあって、マナーの悪い観光客に対する地元住民の苦情が、あきるの市役所へ数多く寄せられていたのだ。「街の安心を取り戻すためにも、早急な対策が必要だった。」と、南氏は当時の状況を振り返った。

「コロナ対策をウェブサイトで発信しましょう。」地元事業者のアイデアを採用。
緊急事態宣言中は、八王子ナンバー以外の車を見るだけで、地元住民が不安を抱いてしまう状態。まずは住民に安心を提供し、次に観光客を受け入れる準備を進めていく必要があると南氏は考えた。たとえ緊急事態宣言が解除され、事業を開始するにしても「街として観光客を受け入れる状態が整っているのか」と疑問を抱く住民の不安を取り除く必要がある。そんな折、あきる野市内の観光事業者から「事業者がコロナ対策をアピールできるウェブサイトを作りましょう。」という提案を受け、快諾した。「秋川渓谷新型コロナ対策連絡協議会」を発足し、「新型コロナ対策“見える化”プロジェクト」を開始した。
観光エリア全体のコロナ対策が一度に見ることができるウェブサイトは、非常に先進的だった。
緊急事態宣言が解除されて間もない6月2日、秋川渓谷エリアの観光事業者が対策をアピールするウェブサイトがオープンした。観光事業者は専用フォームからアンケートに回答するだけで自らの取組を簡単に発信できる。業種別に、「アルコール手指消毒剤の設置」「お客様が触れる箇所の消毒」「店内の換気」「ソーシャルディスタンス接客」「スタッフの健康チェック」などの取組項目に加えて、メッセージを掲載した。地元自治体と観光事業者が協力して実現したこの活動は、観光エリア全体の事業者の対策を一度に見ることができるウェブサイトとし全国的にみても非常に先進的であり、大きな話題を呼んだ。

運営費ゼロ。掲載費無料。観光事業者が、協力することで経費ゼロの取組を実現。
ウェブサイトを通じて地元住民、観光客の両者にアピールができたことで、緊急事態宣言解除後の観光客の増加が想像をはるかに超えた一方、地元住民からの苦情は少なかった。関係事業者の協力により制作費やサーバー費用のみならず、各事業者の掲載費も無料。つまり、経費ゼロでウェブサイトの構築を実現したのだ。秋川渓谷の観光事業者が一致団結してこのウェブサイトを作り上げたことは、「商店会の会長として大変喜ばしいことだった。」と南氏は目を細める。

若い人や外部の意見を取り入れた“街おこし”の観点がコロナ対策でも重要。
開設当初は数十件だった掲載件数もあきる野市役所、観光協会、交通事業者などの後援を得られたことにより、三桁に迫るまでに増加し、今も更新中である。このウェブサイトの存在が広く知られた理由は、東京都から地域活性支援で派遣されているタウンマネージャーの協力により、SNSを使った情報の拡散を行ったことが大きかったという。「地元の事業者だけではなく、タウンマネージャーや市外から来た若い事業者の声にも積極的に耳を傾け、受け入れる風土があったことも、このプロジェクトが成功した理由の一つ。」と南氏は語る。
実は、南氏自身も若かりし頃、地元の観光協会に「マラソン大会をやりましょう。」と持ち掛け、20年余り続けてきた。年齢や出身地の壁がないことは、街の伝統でもり、「大切なのは、凝り固まった視点を捨て、新しいアイデアをどんどん取り入れることですね。」と南氏は語る。これからも、地元住民、観光事業者、観光客の三者のバランス取りながら、秋川渓谷の自然を守っていく。