好奇心を喚起し、 “楽しみながら”感染対策

公開日:2021/1/29

好奇心を喚起し、 “楽しみながら”感染対策

年間入館者数が300万人を超え、国内の水族館として最多の集客数を誇る沖縄美ら海水族館(沖縄県国頭郡本部町)。2019年までは、総入館者数のうち3割以上が中国・台湾・韓国を中心としたアジア圏からの旅行者を占め、6割近くが国内県外からの旅行者で構成されていた。しかし、2020年1月、突如拡大し始めた新型コロナウイルスの影響により、入館者数は一気に激減。2020年12月現在において、すでに3度の臨時休館を経験した。今回、国内屈指の観光スポットが、新型コロナウイルス対策としてどのような取組を行ったのか話を伺った。

■画像提供 国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館(※2020年12月時点の情報)

入館者数は7割減、さらに3度の臨時休館

沖縄美ら海水族館は、これまでもニューヨーク同時多発テロやSARS・新型インフルエンザの流行、日韓関係の悪化など国際情勢や疾病による影響を受けることがあった。その経験から、感染症対策マニュアルの整備や非常事態に際した物品の備蓄、多言語に対応したアプリによる情報提供など、不測の事態に対する備えは常になされていたという。今回の新型コロナウイルス感染症も例外ではなく、2019年12月末に中国武漢市での感染症例がマスコミで報道された後、翌1月後半に迎える春節を見込み、衛生用品の備蓄状況の確認のほか、看護師を中心に救護マニュアルの見直し、職員のマスク着用、手洗いと手指消毒の徹底などをいち早く実施した。しかし、その影響はすぐさま国内にもおよび、1月時点で約25万人あった入館者数が3月には約7万人にまで激減。さらに3月2日から約2週間、4月7日から約2カ月間、そして8月2日から約1カ月間、3度の臨時休館を余儀なくされた。

好奇心を喚起し、 “楽しみながら”感染対策 入館者数は7割減、さらに3度の臨時休館 ■画像提供 国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館
■画像提供 国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館

好奇心を喚起させる感染対策

3月の再開当初は、政府の基本的な対処方針に加え、感染症を専門とするドクターのアドバイスを取り入れながら独自の対策を検討し、導入した。その際、沖縄美ら海水族館が重視したのが「エンターテインメント性の保持」。水族館のような屋内施設の場合、密集対策や館内の換気は感染対策に欠かせない重要項目となり、本来の目的である海の生き物との出会いや感動を提供する場との共存が課題となる。そこで、沖縄美ら海水族館では、スケール感あふれる水槽の前に立ち位置を示したり、人の密集しやすい人気生物の水槽の数を増やすことで人を分散させようと考えた。その際も、ソーシャルディスタンスをその水槽にすむ魚の数(体長換算)で表現するなど遊び心を忘れず、「禁止」や「注意」を喚起するのではなく、“楽しみながら”子どもから大人まで自然に安全が確保できるように誘導することを心掛けた。館内換気は、通常営業でも十分な換気能力が実証されているが、館内のすべての非常用扉を常時開放することで、来館者が外からの風を体感し、「密閉されていない」という安心感を醸成した。

好奇心を喚起し、 “楽しみながら”感染対策 好奇心を喚起させる感染対策 ■画像提供 国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館
■画像提供 国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館

可能性を模索し、これまでにない水族館の楽しみ方を提供

沖縄美ら海水族館では、インターネットやアプリを使った対策も積極的に行っている。例えば、館内で接触感染した場合に来館者に速やかに通知が行えるよう、お客様には入館前に美ら海アプリのインストールを促している。本来はインバウンドに対応するため5言語による館内ガイドや生き物図鑑を備えたもので、コロナ禍以降貸出中止にした多言語オーディオガイドもこのアプリで補填している。また、アプリやホームページでリアルタイムの混雑状況を提供し、混雑のピーク分散化にも役立てた。さらに、休館中には新たな試みとして、バックヤードから見る水族館オンライン遠隔授業やYouTubeによる生き物たちのライブ配信など、休館しているからこそ実現できる新たなコンテンツ造成にも積極的にチャレンジ。主に感染症対策により外部との接触が遮断され不安を感じている子ども病棟や特別支援学校を対象としており、観光施設としてだけではなく博物館としての教育機能も担っている当館ならではの取組だ。

好奇心を喚起し、 “楽しみながら”感染対策 可能性を模索し、これまでにない水族館の楽しみ方を提供 ■画像提供 国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館
■画像提供 国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館

多くの経験と教訓を糧に、新たな水族館に

これまで幾度となく国内外の感染症による波を乗り越えてきた沖縄美ら海水族館にとっても、今回の新型コロナウイルス感染症の影響は想定以上の出来事だった。「私たちは過去に経験のない甚大なコロナ渦を経て、多くの経験と教訓を得ることができました。臨時休館では観光施設としての機能は停止してしまいましたが、博物館としての教育機能は失われることなく、むしろ誰もいない水族館だからこそ実現できる新たな取組にチャレンジできたと思います。また、インターネットを活用したオンラインツアーやデジタル機器を用いたハイブリッド型の観光も、今後は水族館の重要なコンテンツとなるかもしれません。」と沖縄美ら島財団 水族館事業部 統括の佐藤氏は語った。

好奇心を喚起し、 “楽しみながら”感染対策 多くの経験と教訓を糧に、新たな水族館に ■画像提供 国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館
■画像提供 国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館