入店時間によって同じ料理であっても価格を変動させる「ダイナミックプライシング」の導入で密を回避!

公開日:2021/6/29

入店時間によって同じ料理であっても価格を変動させる「ダイナミックプライシング」の導入で密を回避!

メニューは日替わり定食の一品のみ──これが北参道で大きな人気を誇っている飲食店「お食事処asatte(アサッテ)」(東京都渋谷区)の一番の特徴。以前はお昼時ともなれば行列ができることもめずらしくない繁盛店として、老若男女様々な方が利用していた。しかし2020年3月、新型コロナウイルスの感染拡大により同店も休業を余儀なくされる。その中で、お客様を守るため、スタッフを守るため、店を守るために打ち出した「ダイナミックプライシング」について詳しい話を伺った。

「実家のような場所でありたい」という想いから、1日1メニューの定食屋としてスタート

何十種類ものメニューを用意し、お客様が自分の好みに合わせてメニューを選択するという飲食店の常識を覆すように、メニューは日替わり定食一品のみという異色の形態でスタートした「お食事処asatte」。「イメージしているのは“実家の食事”です。考えてみると親と暮らしていた頃は子どもに選択権はなく、出されたものを満足して食べていましたよね。asatteも実家のように安心して食事を楽しめる場所になれたら──と考え、1日1メニューというスタイルを導入したんです」と店長の車氏は語る。同店がオープンしたのは2016年10月。現在のような状況になることは予想もしていない時期での選択だったが、実はこれが「asatte」のコロナ禍の経営対策である「ダイナミックプライシング」を成立させる大きな柱となったのだ。

入店時間によって同じ料理であっても価格を変動させる「ダイナミックプライシング」の導入で密を回避! 「実家のような場所でありたい」という想いから、1日1メニューの定食屋としてスタート

密を防ぎつつも利益を出すために、以前から検討していた変動料金制を導入し、営業を再開

「asatte」にホームページはなく、メニューのお知らせは店頭の看板と毎朝10時に更新されるSNSのみ。それにもかかわらずオープン当初からランチタイムには行列ができ、人気メニューの生姜焼き定食屋や、唐揚げ定食の日は品切れが原因でお客様をお断りすることもあったそう。そんな順風満帆な中、同店も新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けることとなる。2020年3月は営業を自粛し、4月から5月末にかけてはテイクアウトの弁当を提供。そして営業を再開した6月1日から、同じメニューであっても入店時間帯によって料金が変動する「ダイナミックプライシング」を導入したのだ。飲食業界では極めてめずらしい事例だが、これは旅行業界では一般的なシステム。GWやお盆・年末年始などの繁忙期(ハイシーズン)と、それ以外の閑散期で宿泊料金や航空料金を変動させる制度──というとわかりやすいだろう。たとえば「asatte」ではランチのピークタイムである12時~12時30分は1,400円なのに対して、一段落する14時30分から夕方までは850円まで値段が下がる。同じメニューであっても1日の間に最大で500円以上の差を生じさせることにより、来客数をセーブしつつ、最低限の利益を確保しているのだ。

入店時間によって同じ料理であっても価格を変動させる「ダイナミックプライシング」の導入で密を回避! 密を防ぎつつも利益を出すために、以前から検討していた変動料金制を導入し、営業を再開

SNSでの告知やお客様一人ひとりへの説明を通じて、新システムの導入を周知

「実はオーナーはコロナ以前から、お断りするお客様を減らして業績をアップするために来店タイミングをコントロールできるダイナミックプライシングを検討していました。それがたまたまコロナ禍に突入し、密を避けつつ利益を確保する方法に変化。うちはもともと12席とコンパクトなお店ですから料理の価格はそのままで席数を減らすだけの営業では、いずれ経営が立ち行かなくなると考えたんです」と店長の車氏は振り返る。ダイナミックプライシングを始めるにあたり行ったのはSNSでの告知と、時間帯によって価格が変わることを記したポスターなどの準備。初期費用をほとんどかけることなくスタートを切った。「来店されるお客様全員がSNSをご覧になっているわけではありませんので、最初は一人ひとりにダイナミックプライシングの内容と料金設定についてご説明しました。戸惑われる方もいらっしゃいましたが、ほとんどのお客様から“おもしろいね”という声をいただきました。ダイナミックプライシングの導入が周知されたあとは、空いている時間や料金が安い時間を狙ってくる方など客足がばらけたため、以前のようにピーク時にお客様が集中することはなくなりました」と店長の車氏。

入店時間によって同じ料理であっても価格を変動させる「ダイナミックプライシング」の導入で密を回避! SNSでの告知やお客様一人ひとりへの説明を通じて、新システムの導入を周知

お客様から一定の評価を得られたのは、スタッフの頑張る姿を見ていただけたから

「私たちがダイナミックプライシングを導入できているのは、メニューが日替わり定食のみという、シンプルな営業形態だったというのが大きいと思います。たくさんのメニューを提供しているお店では難しいかもしれません」と語りながらも、導入当時を振り返ってくれた店長の車氏。「最初はお客様へのご説明やオペレーション、時間ごとに変わる会計金額の確認など、スタッフにはかなりの負担をかけてしまいました。しかし、安心・安全を守るために頑張る姿を見ていただけたからこそ、お客様から一定の評価を得ることができたと考えています。どのような施策を導入するにしても最初は大変だと思いますが、店側の想いはお客様に伝わりますし、結果的にはよろこんでいただけるはず。一緒に頑張ってコロナ禍を乗り切っていきましょう!」とエールを送ってくれた。ちなみに「asatte」では、ダイナミックプライシングのようなフレキシブルな様々なアイデアがコロナ禍以降多く採用されている。例えば、最近では酒類提供禁止要請や緊急事態宣言の影響でダウンした業績をフォローするために、フードトラックを購入。のり弁専門店としての運営もスタートし、さらなるファン層の獲得に打って出た。近すぎる明日でもなく、遠すぎる未来でもなく、お客様の “明後日”を明るく照らす存在であるために、同店はこれからも変化をつづけていく。

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