観光果樹園が打ち出した自宅で楽しめる「巣ごもりシリーズ」で新たな販路を開拓
公開日:2021/6/29
年間を通じて約150品目もの果物を栽培する観光果樹園「平田観光農園」(広島県三次市)。これまで定番だった食べ放題式の果物狩りから、農園での収穫などの体験、いわゆる “コト消費” にフォーカスし、10年ほど前から果物体験教室や果樹園グルメなど、新しいコンテンツを発案してきた。そんな同園が、新型コロナウイルスの拡大というピンチを乗り越えるべく企画した新たな取り組みとは。
最盛期を迎えたいちご狩りの予約がほぼキャンセルに
1,500円のチケットを購入すれば、熟れ頃を迎えたさまざまなフルーツが収穫できるシステムが人気となり、新型コロナウイルス感染拡大以前は年間13万人が訪れていたという同園。果物狩り以外にも、収穫したフルーツを使ったピザやケーキ作りが体験できる施設『イチコト』や、農園カフェ『noqoo(ノクー)』、テイクアウト専門店『noqoo DELI(ノクーデリ)』のほか、ダッチオーブン窯も併設されたバーベキュースペースなど、果樹園テーマパークとしてさまざまなコンテンツを提供してきた。しかし、2020年の新型コロナウイルスの影響で、いちご狩りが最盛期を迎えた3月以降の団体予約がすべてキャンセルになった。同年4月の緊急事態宣言の発令以降は個人客からのキャンセルも相次ぎ、月間の前年比は95%マイナスと大幅に売り上げが減少した。しかし、そんなこととは関係なく、園内では次々と果物が実っていく。せっかく実ったいちごを腐らせるわけにはいかないと、従業員総出で収穫体制に入り、収穫したいちごの新たな販売ルートを模索した。
こだわったのは、自粛中でも自宅で楽しめる“コト消費”
収穫したいちごをどのように販売するかについては、従業員全員でアイデアを出し合った。「いつもなら、この時期にいちご狩りを楽しみにしてくださっている人たちがたくさんいた。自粛により出かけられないご家庭向けに、自宅でいちご狩りを楽しんでいる気分になれたら…という思いから『巣ごもりいちご狩り』の販売を決定した」と、代表取締役の平田克明氏は同時を振り返る。セットの内容は、収穫されたいちごと、いちご狩りに使うヘタ入れ、ポーションタイプのミルク。そして、それだけではつまらないと、スタッフが扮するいちご狩りの案内人「いちごちゃん」による、いちご狩り気分を盛り上げる解説動画が視聴できるURLも一緒に届けた。この取り組みはすぐにマスコミにも取り上げられ、販売から約1カ月で予定の300セットを完売することができた。それ以降も『巣ごもりさくらんぼ狩り』や、手軽なレシピで好みのジャムができる『巣ごもりジャム作り』を販売し、いずれもスタッフが手作りした解説動画とともに届けられた。

まずはやってみる、という企業文化ならではのスピード感
休園から緊急事態宣言を受け、すぐに巣ごもりシリーズの販売を開始したことは、業界の中でも群を抜いたスピード感だといえる。その行動力について聞いてみると、「社会全体が不安なときだからこそ、できるだけ早く情報発信して、元気なところを見てもらうことが一番大事だと思いました。お客様に忘れられないこともそうですが、お互いの気持ちが元気になって繋がっていられることで、自粛明けのお客様の戻り方が変わってくると考えました」と、平田氏は語る。また、同園では、やってみたい事業があれば誰でも提案することができ、採用されれば発案者が社長となり経営する、「まずはやってみる」というチャレンジ推奨が企業文化として根付いていたことも功を奏した。
コロナ禍の取り組みを新たな販売チャネルに
巣ごもりシリーズの販売により、これまで接点の少なかった関東圏の顧客からも注文が入ったり、SNS上で収穫の様子や新作パフェを定期的に発信することで繋がることができた。平田氏は新型コロナウイルスの影響で、チャレンジできたこと、知ったことがたくさんあったと話す。「いちごの販売ひとつをとっても、普通のパンフレットやパッケージでスーパーに並べても、お客様に見つけてもらうことはできません。当園で言うなら、ちゃんと“コト消費”として提供することで、これまで来園してくださったお客様と、まだ当園を知らなかったお客様との繋がりを生むことができた。できることはまだまだあることを教えてもらいました」。“コト消費”というスタンスを貫きコロナ禍の舵取りをした同園は、結果的に年間売り上げの対前年比93%(マイナス7%)に留めることができた。そして、2021年も引き続き自宅で果物が楽しめる新シリーズを販売する予定だ。