森林・林業の研究(東京都農林総合研究センター)について

(公財)東京都農林水産振興財団 農林総合研究センター緑化森林科(森林チーム)では、豊かな森林づくりに寄与するため、東京の森林・林業が抱えている技術的課題を解決し、行政・普及部門を通して、森林所有者や都民に技術指導・情報提供を行っています。
詳しくは、東京都農林総合研究センターホームページ

試験研究内容(※1畜産技術科と共同研究、※2園芸技術科が担当)

  1. 皆伐地における広葉樹の森づくりに関する研究
  2. シカの生息域拡大過程ならびに捕獲シカの肥育条件の解明※1
  3. 多摩地域の森林特性を踏まえた集材作業の効率化に関する研究
  4. 少花粉ヒノキの早期実用化に関する研究
  5. 都産無花粉スギの普及に向けた新交配家系の作出※2
  6. ヒノキ少花粉品種採種園造成に向けた早期着花手法の確立
  7. 奥多摩町多摩川北岸における再造林地のシカ被害調査の委託
  8. 採種園・採穂園の整備及び種子採取業務等の委託
  9. シカの行動域ならびに効率的な捕獲方法に関する調査委託

平成25年度試験研究実績

1.皆伐地における広葉樹の森づくりに関する研究

ア 高標高の伐採地における植生変化ならびに植栽木の生育

目的
標高800mを超える皆伐地における広葉樹の動態等が不明なため、高標高の伐採地における植生の変化や植栽した広葉樹の生長等を明らかにする。
摘要
植生調査の結果、伐採により一時的に植被率、種数ともに減少したが、その後増加した。これは、伐採によって光条件が良くなったためと考えられる。また、実生由来の高木性広葉樹は27種確認されたが、優占種は草本類であった。これは、光条件が良い環境下では、一般的に草本類のほうが樹木より生育が早いためと考えられる。また、木の生長を促すための下刈りのさい、高木性広葉樹の幼樹も伐採されているためと考えられる。これらの結果、本調査地のような環境下において広葉樹の成育を促すためには、広葉樹より生育の早い草本類を刈り取らなければならない。刈り取りのさいの誤伐を防ぐため、定期的に現地調査を行い、発芽している広葉樹をマークしておくことが必要である。

イ 多摩地域に適した高木性広葉樹種の選出

目的
東京都は2006年からスギ花粉発生源対策事業において、再造林を盛んに実施しており、花粉の少ないスギ以外にも、広葉樹が植栽されている。これら植栽木のうち広葉樹においては、生育不良や自然枯死の問題が生じている。これらの問題解決のために、多摩地域の各標高に適した高木性広葉樹種を選出し、今後の植栽事業に活用する。
摘要
対象エリアは、奥多摩町、桧原村、青梅市、あきる野市、日の出町、八王子市とした。東京都植生調査報告書(1987)の植生調査データを解析した結果、多摩地域に適する高木性広葉樹種65種が選出された。また、これらの生育に適すると考えられる標高を提示した。

2.シカの生息域拡大過程ならびに捕獲シカの肥育条件の解明

ア 再造林地における2011年から2013年にかけてのシカ生息密度分布の変化

目的
2011年に糞粒調査を行った再造林地において2012年、2013年と同じ調査を行い、シカの生息密度分布の変化を把握し、再造林地における造林木へのシカ被害対策に活用する。
摘要
2011年から2013年にかけてのシカの生息状況は、多摩の森林の東南部で高密度な状態を維持しており、一度広がった分布は、縮まらない傾向にあることが明らかになった。今後、都内のシカ生息域の外延化を抑えるには、管理捕獲に加えて、新たな対策をとる必要がある。

イ 多摩地域におけるシカの行動範囲について

目的
ニホンジカ(以下、シカと略す)の移動ルートや行動範囲が解明されれば、再造林する際の適切な被害対策を事前に検討することが可能となる。そこで、多摩地域にセンサーカメラを配置し、撮影された画像のうち個体識別可能なシカについて情報を入手し、都内のシカの行動範囲を把握する。
摘要
奥多摩町多摩川北岸のシカは、北岸のエリアに行動範囲が限られ、多摩川南岸への移動はほとんどないと推定される。一方、多摩川南岸の八王子市で撮影されたシカは、広域を移動する個体と予測された。今後、神奈川県と連携したシカ行動調査の重要性が示された。

ウ 多摩地域で再造林したスギ、ヒノキ、広葉樹のシカ被害の比較

目的
多摩地域の再造林地のシカ被害と樹種との関係を明らかにし、被害対策および今後の再造林樹種の選定などに活用する。
摘要
近年再造林した広葉樹は、梢端部や側枝の被害が著しく、成林は困難と考えられる。広葉樹に比べヒノキの被害は少なく、スギはさらに少なかった。スギは、幹への剥皮害がみられるものの、被害を受けた後の萌芽力はヒノキより強く、現時点の多摩地域のシカ生息密度で成林可能な樹種であると考えられる。

3.多摩地域の森林特性を踏まえた集材作業の効率化に関する研究

ア 多摩地域における主伐作業の現状分析

目的
東京都多摩地域は急傾斜地が多く、また小規模林業所有者が多数を占めることから、作業道の作設が難しい。このような多摩地域の実情に応じた効率のよい集材システムを提案するため、主伐事業地の現状を把握する。
摘要
主伐事業地5箇所において、集材作業の功程別作業時間を調査した。功程別作業時間は、現場条件によって異なり、効率性の観点から、各現場に適した作業方法を採用していることが明らかになった。また、荷外し時間については、作業システムの工夫により、時間を短縮できることが考えられる。

4.少花粉ヒノキの早期実用化に関する研究

ア 若齢採種木におけるジベレリン剤施用の効果

目的
少花粉ヒノキ種子の早期生産を目指し、若齢の採種木に対するジベレリン・ペーストの施用方法を確立する。
摘要
若齢の採種木に対してジベレリン・ペーストを2mg施用した場合、1個体あたり20~25gの種子が採取できることが判明した。しかし、樹容積が概ね0.35m3(平均樹高130cm,平均枝張150cm)を超えると採種量が増えないため、これらの採種木にはジベレリン・ペーストを2mg以上施用する必要があると考えられる。

5.都産無花粉スギの普及に向けた新交配家系の作出

ア スギ雄性不稔個体の選抜マーカーの開発
~2010年交配F2系統における有望なSNPマーカーのスクリーニング~

目的
雄性不稔スギの作出を効率化するため、不稔個体を識別するためのDNAマーカーを開発する。本試験では、2010年交配のF2系統を用いて、不稔遺伝子近傍のSNP(1塩基多型)マーカーの中から有望なマーカーをスクリーニングする。
摘要
F2系統「10-75大」ではestSNP00204など4個の有望なSNPマーカーが得られ、2個を組み合わせることで不稔個体を識別できると考えられる。

イ スギの雄性不稔遺伝子をヘテロ型で保有する新系統の作出
~関東型雄性不稔スギ×東京都精英樹等によるヘテロ型系統の作出(2012年交配)~

目的
多摩地域への適応性の高い雄性不稔スギを開発するため、東京都および関東育種基本区の精英樹を主たる交配親に用いたヘテロ型系統を新たに作出する。ここでは、関東型不稔スギと東京都精英樹等を用いて2012年交配系統を作出する。
摘要
23組合せの交配を行った結果、12系統が得られたが、1系統あたりの苗数は15株以下と少なかった。

ウ 富山不稔スギ等と東京都精英樹を交配したF2個体群の評価
~2011年交配F2系統における雄性不稔個体の一次選抜~

目的
2011年交配F2の1年生苗で花粉の有無を調べる稔性検定を行い、雄性不稔個体を一次選抜する。
摘要
富山不稔由来の3系統、新大不稔1号由来の20系統、計23系統2267個体について検定した結果、富山不稔由来のF2から不稔個体47株を選抜できた。一方、新大不稔1号由来のF2では、花粉粒の崩壊時期が遅いために、富山不稔と同様の検定法では不稔個体を選抜できないと考えられる。

6.ヒノキ少花粉品種採種園造成に向けた早期着花手法の確立

目的
ヒノキ少花粉品種が確定し、今後、採種園等で普及に向けた活用が進められていく予定である。しかし、ヒノキは難着花性であり、事業ベースでの活用については未だ確立されていない。そこで、実施要領の策定に向けた事業ベースでの着花手法について確立するとともに、採種園造成によるヒノキ少花粉品種の種子の早期供給技術の確立を図る。
摘要
関東育種基本区内で選定されたヒノキ少花粉品種を対象に、ジベレリン・ペーストの施用時期による着花の促進試験を実施した。昨年度ジベレリン・ペーストを施用し着花量及び葉枯れ調査した採種木について、球果数、球果生重量、種子乾重量、種子200粒重及び発芽率を調査した。また、マニュアル化を目指し、ジベレリン・ペーストの施用時間等を測定した。その結果、着花促進に有効なジベレリン・ペーストの施用時期が判明し、ジベレリン・ペーストの使用基準ならびに施用単価表を作成した。

7.奥多摩町多摩川北岸における再造林地のシカ被害調査の委託

目的
奥多摩町の多摩川北岸におけるシカ生息密度は低下傾向にあるが、再造林地に及ぼす影響は不明である。そこで、人工林を伐採した後、再造林した造林木にシカがどの程度被害を与えるか明らかにする。
摘要
本調査は、4年間におよぶものであり、今年度は、その2年目にあたる。昨年度(平成24年度)は、3箇所で伐採が行われた。今年度(平成25年度)は、この3箇所で6月下旬に植栽(再造林)が行われた。そこで、今年度の調査は、再造林木の1年目の植生状況および植栽木のシカによる被害の実態を明らかにするとともに、シカの生息状況の把握を行った。これらをとりまとめ、今後の予測について考察した。

8.採種園・採穂園の整備及び種子採取業務等の委託

目的
林業種苗法に基づき、都内の造林事業に用いる少花粉スギやヒノキの優良種苗を供給するため、採種園等を整備・管理し、種子採取を行う。
摘要
種子採取成果:青梅庁舎内採種園で、少花粉スギ種子を4.61kg採取した。そのうち東京都に4.00kg納品し、残りの0.61kgは冷凍保存した。発芽率は46.8%であった。また、日の出試験林内採種園で、ヒノキ種子を2.33kg採取した。そのうち、東京都に1.00kg納品し、残りの1.33kgは冷凍保存した。発芽率は46.5%であった。

9.シカの行動域ならびに効率的な捕獲方法に関する調査委託

目的
全国でニホンジカ(以下、シカと記す)の食害が発生しており、その被害は拡大している。この状況下において、伐採、植裁、保育などを適切に実施される森林は、新たなシカの餌場として被害を拡大させる可能性が高い。そこで、森林を健全に育成するデータを収集するため、シカにGPSテレメトリーを装着して再放獣することにより行動域を分析する。また、近年シカの生息域が拡大分散している傾向にあり、シカの捕獲が年々困難になってきているため、人工知能を活用したシカ捕獲装置による効率的な捕獲方法を検討し、今後のシカの頭数調整に役立てる。
摘要
シカへのGPSテレメトリー装着は遂行できなかった。効率的な捕獲方法については、檻のサイズの違いによるシカの侵入状況を調査し、奥多摩におけるシカ捕獲時に最適な檻のサイズを検討した。

研究の発表等

(1)研究発表会

ア 森林・林業発表会(平成25年6月4日、於:日の出庁舎研修室)

  • 豊かな森づくりを目指して ~針広混交林化のポイント~
  • シカによる剥皮害の実態は? ~剥皮害の発生時期と原因について~
  • 多摩地域に適した無花粉スギの開発 ~若い苗からの無花粉個体の選抜~

イ 農林総合研究センター研究発表会(平成26年3月7日、於:立川庁舎講堂)

  • 多摩の森林におけるシカの生息域をさぐる
    ~シカはどこにいて、どんな森林被害を及ぼしている?~

(2)学会・専門誌等への発表

ア 関東森林研究64-1

  • 首都圏における糖脂肪酸誘導体によるスギクローンの花粉生産量の抑制効果

イ 山梨県総合理工学研究機構研究報告書 第8号

  • 南アルプスにおけるニホンジカによる高山植物への影響と保護対策および個体数管理に関する研究

ウ 関東森林研究65-1

  • 奥多摩演習林におけるニホンジカの糞消失要因の解明

エ 現代林業 2013.9

  • 人工林の伐採跡地の広葉樹林化を予測する

オ 公立林業試験研究機関研究成果選集.No.11

  • 東京都多摩地域での森林作業道作設に関する調査研究

カ 関東中部林業試験場研究機関連絡協議会 研究情報.38.

  • 列状間伐地に巣植えした植栽木の生長量調査

(3)講演

ア 第47回林業技術シンポジウム

  • 東京都におけるシカ森林被害対策の取り組み

イ 第61回日本生態学会大会

  • 間引きによる密度低下がニホンジカの体サイズに与える影響

ウ 第3回関東森林学会大会

  • 奥多摩演習林におけるニホンジカの糞消失要因の解明

お問い合わせ

東京都農林総合研究センター 緑化森林科(森林チーム)
電話:042-528-0538