第5回 需要に応え、地場流通を支える 馬場 敏明さん(キュウリ/日の出町)

 直売所に並ぶみずみずしいキュウリ。日の出町の農家である馬場さんが届けたものだ。高校卒業後、神奈川県の農業アカデミーで技術を学んだ馬場さんは、キュウリを作っていた父親への反発心から、就農当初はトマトづくりに挑んだが、気付けば自身もキュウリに力を入れるようになっていた。

 「温度や湿度はもちろん、葉の枚数管理に至るまでキュウリ作りに正解はない。経験と観察をもとに、株ごとに水やりのタイミングも変える」。旬の夏以外の時期に収穫するためのビニールハウスを用いた栽培にも着手。当時珍しかった春キュウリの収穫を安定させるため、約5年間の試行錯誤を重ねた。今では品揃えを意識し、キュウリのほかにもダイコン、キャベツ等、計13品目の野菜を直売所や地域のスーパーマーケットへ出荷している。

 豊富な経験から指導農業士としても定評のある馬場さんは、新規就農を目指す研修生の受け入れも行っている。農家の厳しい面を丁寧に教えた上で、自分自身で考えさせ、就農後も経営者として自立できるように指導する。
 安定した野菜生産が盤石な経営を可能にし、消費者の期待に応えられるという考えから、自身は最低限の使用に抑えている農薬も、「まずは使ってみて、そこから使わないで済む方法を考え、工夫しなさい」と教えている。

 都内では夏の暑さが厳しく、生育が難しい冷涼地向け野菜の生産にも挑戦している。さまざまな暑熱対策を駆使し、この場所でやりたいと話す。今後の目標を訊ねると「指導だけでは物足りない。体力が続く限り野菜を作り続けたい」と笑った。

地方とは異なる東京ならではの農業経営を確立し、次世代へつなげている