第8回 新しいものへの挑戦は夢と希望 中村 博さん(ブドウ・キウイ・梨/東村山市)

 紅環(べにたまき)、クイーンニーナ、ベニアリサ等希少な高級ブドウを栽培しているのは、東村山市で果樹園·久安(きゅうあん)を営む中村さん。基幹品種を中心に、全国でも珍しいブドウを30種ほど栽培し、注文発送などで直販している。8月は梨の幸水や秋麗(しゅうれい)と黒ブドウのブラックビート、9月はシャインマスカット、10月はキウイの紅妃(こうひ)が主な商品だ。

 

 果樹園の入口に「久しく安泰·久安」の看板。屋号「久安」の先祖がこの地に移り住んだのは、江戸末期の1855年頃だ。
 「運送業で土地を得、蚕で増やし、戦争中は農業、父の代は養豚。家業は時代とともに変化し、今農地は150アールあります」と中村さん。「東京で果物を育てるなんて」と揶揄されながら梨を植え、35年前、果物専業農家に。以後、キウイ、ブドウの栽培に果敢に挑戦し、息子さんが跡を継ぐことが決まった15年前からは、根の範囲を制限して育てる根域制限栽培に踏み切り、シャインマスカットの栽培を充実させた。いまではブドウの半分以上を占める。

   

 ブドウの根域制限栽培は都内でも数軒。中村さんが先駆者の一人だ。直植えしないことで水と肥料を理想的な状態で管理するため、東京でも皮ごと食べられる、高度な技術が必要なヨーロッパ系のブドウが作りやすくなる。
 「こんなの食べたことない!という感想が一番うれしい。よそでは買えない品種で勝負しているからね」。新しい栽培法や品種は、育種した方に直接指導を受けに行った。工夫し、年月をかけて栽培し、ようやく実る。「挑戦は怖いけど、新しい品種や栽培方法は夢と希望。農業の進歩のために」と自分を鼓舞してきた。
 「今はシャインマスカットのおかげで経営できているけれど、そろそろ次の一手が必要」と、この地で「久しく安泰」を願い、画期的な一手を模索中である。

 

 

1粒が大きく玉張りするよう、一房一房粒を間引く作業に手間がかかる