第6回 200年、300年先を見据えて 田中 惣次さん(林業/檜原村)

 周囲を山に囲まれた緑豊かな地、檜原村で江戸時代から約400年続く林業家の14代目として、木を育て山を守り続ける田中さん。保有・管理する森林面積約500haのうち、スギとヒノキの人工林が半分。残りが天然の広葉樹だ。

 主な仕事は、スギ、ヒノキを育てることと雨天対策としての薪づくり。幼い頃から祖父に林業家としての心構えを教えられた田中さんは、大学卒業後、自ら進んでこの仕事に就いた。植林する際は、1日のノルマである200本の苗木を背負い山に入るのだが、奥山の時は「必死の思い」の重労働だったと振り返る。植え付け後、7〜8年間は雑草などを刈り取る「下刈り」を行い、曲がったり折れたりしたものを取り除く「除伐」、下の方の枝を切る「枝打ち」を行う。ここまで20年ほどの歳月を要する。そして林業で最も大切といえる光環境を良くするための「間伐」を行う。

 田中さんが初めて植えた苗も50年生の木に成長した。しかし長い時間をかけて育てたスギが1本850円にしかならないという。「驚くでしょう。日当が240円だった昭和25年と同じくらいの価格なのです。だから林業をする人が減ってしまった」。しかし、森林にとってはこれがプラスに働いた。「安価で見向きもされなかったため、黙々と育ちました。今50年生の木がたくさんあります。これが次世代の強みになる」。

 手入れのされていない山は昼でも暗く地盤が緩いため、土砂災害が起こりやすくなる。人工林が問題に挙げられることが多いが、地面が真っ暗になるほど枝が茂る広葉樹も同様に手入れが必要になる。田中さんは言う。「200年、300年先を目指して、針葉樹と広葉樹が混ざり合った景観の美しい山を作ることが目標」。その思いは、後継者である息子、そして孫へと受け継がれていく。

山を知ってもらうためコテージ経営も行っている。夏は電話が鳴りやまないことも