第1回 日本の食を支える自信と誇り 小寺 正明さん(カブ・ホウレンソウ・ミズナ・ニンジン/清瀬市)

 「野菜作りは子育てと同じ」。小寺正明さんが農業を始めたときに、母親がよく言っていた言葉だという。子供のように愛情を注ぎ丁寧に育てる野菜は、東京都の品評会で毎年高い評価を得ている。
 農業をする両親の姿を見ながら育った小寺さん。幼い頃はやりたくないと思っていたが、長男だったこともあり、農業高校に進学した。農家の子は自分だけ。同級生からは珍しがられたが、かえって負けん気に火が付いた。合格発表の直後に亡くなった祖母が「跡継ぎができた」と喜んでくれたことも胸に残った。大学で農学部に進み地方の農家出身の同級生に出会うと「すごいな、根性が違う」と刺激を受け、一生懸命にやらなくては、という思いが強くなっていった。

 卒業後、両親の元で就農すると、それまでの多品目生産からカブ、ホウレンソウなどに品目を絞るとともに、いち早くハウスを導入し一年を通じて収穫できる高効率な栽培に切り替えた。日々挑戦を重ねながら、10年ほど温め続けたハウスの改良案を仲間と実現させたり、減農薬で作られる農産物の認証制度「東京都エコ農産物」導入を働き掛けるなど、地域の先頭に立ち、東京の農業を支えてきた。

 日本の食を支えることは農家にしかできない。だから安いときも懲りずに続けていくことが農家の最大の使命だと考えている。特に東京の農業は、物価や人件費などで制約される面もあるが、防災や自然環境保全、景観など多面的な機能を持ち、都民生活に貢献している。「これから目指す人には、こうした農家としての自信と使命感を持ってやってもらいたい」と話す。

 家族の思いを受け継ぎ、真剣に堅実に農業と向き合ってきた小寺さん。今後、共に働く長男や次男にどう引き継いでいくか模索中だという。これも一つの挑戦。小寺さんは今日も挑戦を続けている。

▲作業場でホウレンソウの出荷作業。家族と従業員、15人ほどで「毎日楽しく作業をしている」。