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細胞のプリンティング技術で世界の患者を救う 上場後の株式会社サイフューズが誓う「社会への還元」


 

会社概要

事業内容 再生医療等製品の開発・製造・販売
本社所在地 東京都港区三田3-5-27 住友不動産東京三田サウスタワー1F
ホームページ https://www.cyfusebio.com/
設立年 2010年
株式公開年 2022年
株式市場名 東証グロース
資本金 12億円(2023年12月期)
売上高 61百万円(2023年12月期)
従業員数 21名(2023年12月期)
ファンド名 東京ベンチャー企業成長支援投資事業有限責任組合
ファンド運営事業者 大和企業投資株式会社

 

 

事業概要

今までにない治療の選択肢を届ける

再生医療の製品開発で独自の基盤技術を持ち、2022年に東京証券取引所グロース市場に上場した株式会社サイフューズ(東京都)は、3Dプリンタで細胞を積層し、人間の血管や臓器を作る「バイオ3Dプリンティング技術」を有する大学発ベンチャーだ。

人間の細胞のみを使用し、培養して作られた組織・臓器は、感染症や炎症、拒絶反応などのリスクを大きく低減できるとされ、実用化・産業化への期待が高まっている。秋枝静香社長は、「手作業では小さな臓器しか作れないといった技術的課題があったが、プリンタの独自技術を通じて、今までにない治療の選択肢が届けられる」と語る。

秋枝社長


 
 
 
事業内容は、①末梢神経や骨軟骨、血管などを製造し患者に提供する再生医療のほか、②バイオ3Dプリンタの開発及び販売、③3D細胞製品の販売を通じた創薬支援——の3本柱。研究開発系ベンチャーによく見られる基幹技術の「一本足打法」の経営ではなく、それを複数の事業に結びつけている点も、同社の特徴だ。
 
 

同社は2010年に創業。2012年にバイオ3Dプリンタの販売を始めた。独自の技術を持っているとはいえ、そこから約10年で新規上場を果たすのは決して簡単ではない。

一般的なベンチャー企業との違いは、同社が「医療」の分野に関わる事業を展開していることだ。数か月単位でサービスをリリースできるソフトウェア産業とは異なり、事業として確立するためには製造だけでなく、臨床試験などをこなす必要があり、数年単位の歳月を要する。

「組織が研究開発に集中している中、上場を果たすには技術の可能性を評価して長期間にわたって支えてくれる存在は貴重かつ不可欠だった」。秋枝社長は東京都によるファンド事業の意義をこう説明する。
 

ファンドとの出会い

東京都ファンドの意義、「周知」「与信」という利点

同社が東京都のベンチャー企業支援投資事業からの資金提供を受けたのは、2015年。当時はまだ、3Dプリンタの販売から3年しかたっていない状況だった。

三條CFO(最高財務責任者)

「東京都が出資を行っているファンドの支援を受けることのメリットは、資金面にとどまらなかった。創業から間もないスタートアップである当社にとって重要な「周知」という側面でも、ファンドは強力なサポーターとなった」と三條CFO(最高財務責任者)は語る。

事業採択に伴う広報、販促のための戦略、展示会やイベントへの出展案内など、ファンドの担当者を通じてさまざまな機会が案内されたという。「細胞版の3Dプリンタのことをまず知ってもらい、ほかの事業者に可能性を感じてもらえなければ、事業は発展できない。ファンドとの連携が、その第一歩となるつながりをもたらしてくれた」(秋枝社長)という。

 

こうして3Dプリンタの存在が注目を集め、広く浸透し始めた後のフェーズでも、ファンドの支援を受けていることはプラスに作用した。主力製品のパイプラインが臨床段階に入るなか、協業を模索するビジネスパートナーからの信頼をスムーズに得られたことで、事業開発の加速につながったという。

「独自技術を持っているベンチャー企業が多数あるなかで、協業相手から見て『東京都が出資するファンドからも技術力を評価され、支援を受けている』ということは一つの強みになった」と、秋枝社長は話す。

また、ファンドの担当者からは、東京都の支援メニューであるオフィスにかかる補助や、研究開発に不可欠な施設に対する補助など資金面の情報提供がされた。「ファンド担当者から得た、他の企業の先行事例情報も参考になった。ファンドだけに留まらず、東京都が展開する他の支援も大いに活用させていただくことができた」と三條CFOは振り返る。

 

企業の成長と今後の展望

細胞から希望をつくり、支援を還元する

同社は2022年12月、東証グロース市場に新規上場した。協業相手や投資家など、さまざまなステークホルダーとの信頼関係を重ねて実現したものだ。「東京都が出資するファンドからの支援を受けていることは、会社や事業に対する『与信』を頂いているありがたさを感じる場面も多かった」と、三條CFOは話す。

ファンドの担当者とは定期的なミーティングを継続し、常に最新の情報を共有しあったという。企業にとっては、上場だけが正しいゴールとは限らない。臨床や開発、そして上場準備に追われるなか、トップは「最も会社の価値が評価される選択は何か」という難しい判断を迫られることになる。

「良いときも、悪いときも、気軽に相談ができ、話を聞いてくださる相手がいることが、本当に励みになった」。秋枝社長はファンドの担当者から受けてきた支援の意義について、このように振り返った。

 

上場後も、2023年には創薬支援新製品「ヒト3Dミニ肝臓」の販売を開始。体外で肝臓の代謝機能を再現する技術で、従来の動物実験などでは検知できなかったヒトの肝臓における有害事象を予測できるようになる。この技術が評価され、2024年11月には東京都ベンチャー技術大賞で奨励賞も受賞した。

三條CFOは「ファンド運営事業者の大和企業投資株式会社は、開発成果の社会実装などスタートアップにおける事業化に対するこだわりが強いと感じる。『資金を提供して終わり』という支援ではなく、どうすれば成果にとどまらず、事業化のステージへ進められるかを追求する姿勢に学ぶところが多かった」と話す。

足元では、世界初の臨床試験に成功し、将来的な生産体制の構築に向けた協業の動きも活発化している。北米やアジアを中心とした共同研究開発や国際学会への参加などを通じ、海外展開への足がかりを築いている段階だ。

再生医療の市場規模は、2050年に世界で53兆円規模に達すると見込まれる。日本発の企業が、世界中の患者を救う——。「上場はゴールではなく、通過点」という秋枝社長が見据えているのは、そんな未来だ。

「バイオ3Dプリンタの技術を通じて、細胞から希望を創る。患者様はもちろんのこと、創業期から支えていただいた皆様に、そして社会に、世界中に還元しなければいけないと思っています」(秋枝社長)。

 

ファンド運営者より

当ファンドは、当時苦境に立たされていた日本の研究開発型ベンチャーを支援する目的で組成されたファンドであり、医療機器分野も投資ターゲットとしてフォーカスしておりました。最初に同社の事業計画を伺った際には、マネタイズ(事業化)に相当な時間を要するという印象を持ちました。しかしながら、同社の持つ技術が世界の再生医療を変える潜在力を持っていたこと、このビジネスの社会的意義も非常に大きいと感じたことから、迷うことなく投資実行を行いました。

投資実行後は、バイオ3Dプリンタを用いて再生した臓器を提供していくというビジネスモデルを目指していたため、ハードウェアの開発に加え、臨床試験も必要となり、多くの時間を費やすこととなりました。自社での開発が難しい部分については、大企業との連携をいち早く進めることで開発の効率化を図りました。また、上場前のタイミングでは、COVID-19の感染拡大が影響し、臨床試験や上場準備において、大きな障害になったと聞いております。そのような中でも、秋枝社長や三條CFOをはじめ、社員の皆様全社一丸となり、目標に向けて邁進されたことで、上場を成し遂げられたものと考えております。

大和企業投資株式会社 

国内投資運用第二部 担当部長 小林 信男

国内投資運用第一部(前国内投資運用第二部)副部長 堀川 浩祐

 

※記事中の肩書きやデータは公開時点の情報です。現在の事業内容等と異なる場合があります。

 


 

記事ID:029-001-20250109-010805