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世界の先端研究を支える高性能コンピュータ HPCシステムズの上場を導いたファンドの伴走

事業概要

世界の先端研究を支える「高性能コンピュータ」

HPCシステムズ株式会社(東京都)は、複雑な計算やシミュレーションなど、最先端の研究開発において必要不可欠な高性能コンピュータを手がけている。

官公庁や研究機関、企業などの多様な現場で、最高のパフォーマンスを発揮できるコンピュータを「オーダーメード」で提案設計する。「コンピュータのハードからOS、ソフト、アプリケーションまで、一気通貫で作り込める技術力が強みだ」と、小野鉄平社長は語る。

 
小野社長
 

科学技術計算向けのコンピュータを扱うHPC(High Performance Computing)事業と、コンピュータを産業機械などに組み込んで画像処理やディープラーニングを支援するCTO(Configure To Order)事業が、2本柱のサービスだ。取引先には大学、官公庁のほか、自動車、IT、化学・材料、製薬、建設、重工業と各分野の名だたる大手企業が名を連ねる。

設立は2006年。売上高は右肩上がりの傾向を続け、2025年6月期には売上高70億円を計上。この成長を実現させるうえで鍵を握ったのが、2019年の東証マザーズ市場(当時)へのIPO(新規上場)だった。
 
 

ファンドとの出会い

管理体制の強化など、上場に向けた積極的な提案

小野社長は「上場は、設立当初からずっと目指していた」と語る。2008年のリーマン・ショックによって一時は断念した時期はあったものの、2015年頃には再び上場を目指して本格的に動き出していた。

同社にとって、株式上場は大きな意味を持つものだった。

上場前のあるとき、中東の現地企業が「石油の掘削に必要なシミュレーションができるコンピュータ」を探していたことがあった。小野社長は現地に飛んで商談に臨んだが、「小さな会社なので、取り引きは難しい」と難色を示されたという。

高性能コンピュータを扱う事業は、小規模なものでも数百万円単位、大きくて数十億円単位のビジネスになる。取引先も大手企業や研究機関、官公庁が中心になる。「上場企業」に紐づく信頼性は、ビジネスを広げるうえで重要な要素であった。

東京都も出資する中小企業連携促進ファンドの支援を受けることになったのは、上場を本格的に目指し始めた2018年のことだった。それまでの株主構成は事業会社や個人が中心だったが、主幹事証券会社との交渉や上場に向けた計画策定、遂行が求められるなか、知見を持つファンドの支援が必要だった。
「ファンドの担当者には、当社の事業成長に夢を持ってもらえた。ほとんど『社員』というくらい、一緒に働いてもらいました」(小野社長)

ファンドの担当者は、経営会議に参加したほか経営幹部にもヒアリングを重ねるなど、密に連携を取った。上場準備のための計画策定や資料作りに手を動かすとともに、上場後に必要な管理機能の体制強化といった方針も提言した。「経営会議に参加するときも、単に『オブザーバー』として見ているだけではなくて、積極的に提案もしてもらった」と小野社長は語る。

ファンドの出資を受けてからも、技術開発のスピードは落ちることはなかった。「先行的な開発投資にも理解をしてもらえた。目先の利益を優先するようなプレッシャーは感じることなく、自由に動くことができた」というのが小野社長の実感だ。

上場を目指すなかで、社内にも熱気が伝播していった。「本当に上場できるかもしれない」という期待感は徐々に高まり、「最後は『全員で実現しよう』と団結することができました」(小野社長)。

ファンドの手を借りながら、全社一丸となって実現した2019年のIPOだった。

 

企業の成長と今後の展望

「世界中で先端研究がますます進んでいくように」

同社は上場翌年、スーパーコンピュータ「富岳」のクラウド的利用を目指した共同研究パートナーに採択されたほか、ベトナムに海外子会社も設立するなど、事業の幅を広げる姿勢を鮮明に打ち出した。

IPOの恩恵は大きかった。「数億円単位の取引も、今では珍しくなくなった。やはり信頼度は高くなったのだと思う」と小野社長は感触を語る。営業やマーケティングなど、もともと強みであったエンジニア以外の職種にも優秀な人材が集まるようになり、リクルーティングの観点でも好循環が生まれているという。

AI(人工知能)やディープラーニング、ビッグデータ処理などの活用があらゆる領域で進むなか、こうした技術革新を底支えするコンピュータの担う役割も、今後さらなる広がりが期待されている。

「科学技術に貢献していくことが、私たちの会社にとって一番大事なこと。世界中の研究機関や企業などで先端研究がますます進んでいくよう努めたい」と、小野社長。もちろん、その先には気候変動やエネルギー問題、資源問題といった人類的課題の解決が期待されている。

同社が東証マザーズ市場に上場した、2019年9月26日。東京証券取引所で開かれたセレモニーではファンドの担当者も木槌を握った。「一緒にやってきたんだから、ぜひ」と小野社長が声をかけたという。

「ファンドの支援がなければ、上場はできなかったと思います」(小野社長)。感謝の思いとともに五穀豊穣の願いに重ねた5回の鐘の音が響いた。「人とコンピューティングの力で世界平和に貢献する」という経営理念の実現に向けて、それが始まりの合図だった。

 

ファンド運営者より

HPCシステムズ株式会社の持つ高性能計算(HPC)市場での専門性、産業用組込型計算機(CTO)市場での顧客ニーズに応じたカスタム対応力、及び大学・大手企業・研究機関を中心とした強固な顧客基盤に着目し、AI・機械学習の普及に伴い、HPC事業・CTO事業ともに需要は中長期的に拡大が見込まれる中で、同社の競争優位性を確信しました。同社の上場実現は日本の科学技術の発展に資すると認識し、中小企業連携促進ファンドが目指す中小企業の産学連携の意義にも合致したことが、投資に至った経緯です。

投資直後から迅速に、ガバナンス体制、財務管理、内部統制の整備・強化、成長ストーリーを明確化した中期事業計画の策定などの上場準備支援に取り組み、弊社も一体となって上場に向けて走りました。

結果として2019年9月に東証マザーズ(現東証グロース)に上場を果たし、中小企業連携促進ファンドとしての投資は成功裏に終えたことになりますが、同社は上場会社として様々な優位性を獲得したと認識しており、今後も更なる発展と経営理念である「人とコンピューティングの力で世界平和に貢献する」ことを祈念しております。

株式会社トライハード・インベストメンツ 執行役員 藤井 潤 

 

会社概要

会社名 HPCシステムズ株式会社(東京都港区)
事業内容 HPC事業 (High Performance Computer事業)及びCTO事業 (Configure To Order事業)
ホームページ https://www.hpc.co.jp/
設立年 2006年
株式公開年 2019年
株式市場名 東証グロース(2025年12月25日時点)
従業員数 135名(2025年9月末時点)
ファンド名 中小企業連携促進投資事業有限責任組合
ファンド運営事業者 株式会社トライハード・インベストメンツ

 

※記事中の肩書きやデータは公開時点(2025年12月25日時点)の情報です。現在の事業内容等と異なる場合があります。

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