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スマートロックの「Akerun」で、空間の価値を変える フォトシンスとファンドが開いた可能性の扉

事業概要

友人4人で見つけた社会課題「鍵って、不便」

扉に後付けされた端末にICカードやスマートフォンをかざせば、鍵が解錠される――。株式会社Photosynth(フォトシンス)(東京都)が展開するスマートロックの「Akerun」は今日、オフィスや商業施設など、不特定多数の人々が利用する空間では日常的に目にするプロダクトだ。

一般的な鍵とは違い、スマートロックであれば個人認証や遠隔操作、入退室の管理などさまざまな機能が使える。鍵を持ち歩いたり、人を招くために鍵を開けて待機したりする必要もなくなり、安全を担保しながらさまざまな障壁が取り払われる。

「一つのIDや身分証があれば、オフィスや自宅も含めてあらゆる扉が開く。そんな『キーレス社会』の実現と、さらにその先にある少子高齢化などの人手不足の課題を解決する無人化・省人化のためのスタンダードとなる企業を目指しています」と、河瀬航大社長は語る。

 
河瀬社長
 

2014年、渋谷で友人4人と飲んでいるときに持ち上がったアイデアが、すべての始まりだった。

「『鍵って、不便だよね』という話になったんです」(河瀬社長)

持ち歩きは必須だが、紛失すれば大ごとだし、簡単に人に貸すこともできない。「鍵のいらない世の中」を思い描き、勢いのまま製品を試作したところ、メディアに取り上げられ、すぐさま注文が殺到した。仲間内の飲み会からわずか半年で会社設立、という急展開だった。

河瀬社長は「明白に言語化されていなかっただけで、『鍵は不便だ』と感じている人が世の中には多くいることが分かりました」と振り返る。あとはECサイトで個人向けに商品を発売し、掘り当てたニーズを汲みあげて急成長を遂げる、そのはずだった。
 
 

ファンドとの出会い

危機を救ったファンドの支援

ところが、思わぬ誤算が生じた。スマートロックは大いに注目を集め、販売も好調だったが、販売後のデータを追うと、アクティブ利用率が如実に下がっていた。マンションであれば共用部やエントランスの解錠に結局鍵が必要となるうえ、そもそも第三者が家庭を訪問するケースも限定的だった。個人向けプロダクトの量産決定後に判明した盲点だった。

だが、光明がないわけではなかった。

「全体の10%だけ、導入後にアクティブ率が下がらない領域があったんです」(河瀬社長)。それが、不特定多数の人々が出入りする「オフィス」での利用だった。

「ターゲットを法人に切り替えよう」

同社は2016年7月、法人向けプロダクト「Akerun Pro」を発表。売り上げの大半を占めていた個人・家庭向けの生産を止め、法人向けサービスに大きく舵を切った。

しかし、そこで浮上したのが「資金ショート」の危機だった。個人向けプロダクトの開発にすでに多額の投資をしていた中、同社の大幅な戦略転換に対し、周囲の反応は厳しかった。

「さまざまな方面に追加出資を頼んだのですが、首を縦に振ってくれませんでした。私たちはすでに数億円の資金を『溶かしている』会社だ、というのが一般的な見え方だったんです」(河瀬社長)

需要はあるのに資金が無い。危機に瀕したフォトシンス、そこに一縷の望みをつなげたのが東京都ベンチャー企業成長支援ファンドだった。

ハードウェアを扱う業態は生産のための固定費がかかり、利益率はITなどと比べて高くなりにくい。製品不具合などのリスクもつきもので、投資先としては決して有利とは言えない――そのことは河瀬社長も理解していた。

それでも、エンジニアも含めた総動員の営業活動でかき集めた受注データを示し、河瀬社長は「オフィス需要は必ずある」と、ファンド運営事業者の担当者に決死のプレゼンをしたという。

会社の技術力と法人需要の存在への確信、そして熱意に、ファンドは応えた。

出資が実行されたのは、年の瀬も迫った2016年12月26日のこと。河瀬社長は、その後に見た夕日を今でも鮮明に覚えている。

「これで年が越せるぞ、と思いました。大袈裟でなく『救世主が現れた』と。日本はモノづくりの国なので、ハードウェアの領域で新しい価値を出したいと思っていた。ファンドにはものすごい意思決定をしてもらったな、と感じています」(河瀬社長)

 

企業の成長と今後の展望

都心で、地方で、空間の「価値」を変えるプロダクト

今日までに累計7,000社以上に導入され、オフィス需要の取り込みに成功したAkerun。デジタル身分証との連携やAkerunを導入する施設の運営を代行する施設運営BPaaS「Migakun」など、法人向けサービスの幅も広げつつある。

出資を受けた後も「マン振り(全力でスイング)させてもらった」と河瀬社長は語る。新しいサービスの開発や投資にも「きちんと説明すれば、ファンドは必ず理解し応援してくれた。経営者として前向きな姿勢を維持できて、ありがたかった」と言う。

ファンドの担当者は毎月の取締役会に出席し、投資効果を絶えずチェックし続け、成長を下支えした。「私にはない観点から、CFO(最高財務責任者)のような存在で伴走してもらったことは大きかった」(河瀬社長)。

同社は2021年、東証マザーズ市場(当時)に上場。Akerunは今日、オフィス以外にも小売店やスポーツジム、インドアゴルフ練習場などさまざまなシーンで活用されている。

河瀬社長は「空間の持つ価値が、Akerunによって変わりつつある」と語る。入退室が管理できれば防犯上のリスクも低減でき、施設の無人化や24時間365日営業も可能になる。

最近、河瀬社長のもとに朗報が飛び込んできた。故郷・鹿児島県でAkerunを導入したカフェが、学生や会社員向けのコワーキングスペースとして夜間も店舗を開放したところ、収入が大きく底上げされたという。河瀬社長の講演会に足を運んだ店主から、直接、感謝を伝えられた。

「技術や可能性がありながら、評価されにくい会社はまだまだ沢山ある。しっかりとリスクテイクして、可能性を未来につなげるファンドの存在は非常に重要だと思います」(河瀬社長)

ありとあらゆる空間の価値を一変させながら、成長を続けているフォトシンス。華々しいプロダクトの歴史の裏には、企業とともに危機を乗り越え、可能性の扉をこじ開けたファンドの存在があった。

 

ファンド運営者より

当ファンドは、当時苦境に立たされていた日本の製造業スタートアップを支援する目的で組成されたファンドです。製造業はソフトウェア事業と異なり、製品開発の方針転換には多くの資金と時間を要します。フォトシンス社も、まさにプロダクト戦略を転換した直後で、資金面で厳しい状況にありました。

そんな中、同社は家庭向けの初期プロダクト「Akerun Smart Lock Robot」で得たユーザーニーズを的確に捉え、わずか半年で法人向けの「Akerun Pro」をリリースするという迅速な判断を下しました。このスピード感、リリース後の急成長、そして河瀬社長の事業に対する強い熱意は、当ファンドが投資を決断する大きな理由となりました。

投資後も、河瀬社長は高い熱量で事業を牽引し、「Akerun Pro」から得られる入退室データと親和性の高いHR系SaaSとのAPI連携を推進。これにより、ユーザーにとって不可欠なサービスを構築し、事業成長の原動力となったと考えています。

大和企業投資株式会社

国内投資運用第二部長 小林 信男

国内投資運用第一部(前国内投資運用第二部)副部長 堀川 浩祐 

 

会社概要

会社名 株式会社 Photosynth(東京都港区)
事業内容 「Akerun入退室管理システム」等のAkerunブランドのクラウド型IoTサービスや施設運営BPaaS「Migakun」の開発・提供
ホームページ https://photosynth.co.jp/
設立年 2014年
株式公開年 2021年
株式市場名 東証グロース(2025年12月25日時点)
従業員数 149名(2025年9月末時点)
ファンド名 東京都ベンチャー企業成長支援投資事業有限責任組合
ファンド運営事業者 大和企業投資株式会社

 

※記事中の肩書きやデータは公開時点(2025年12月25日時点)の情報です。現在の事業内容等と異なる場合があります。

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