目指したのは「社会的意義のある経営」 コミュニティセンター社長の、MBOという決断
会社概要
事業内容 | マンション管理員代行業 |
本社所在地 | 東京都練馬区栄町2-10 セレス21 B1 |
ホームページ | https://community-center.co.jp/ |
設立年 | 1993年 |
従業員数 | 社員96名 スタッフ2026名(2024年11月末) |
ファンド名 | TOKYO・リレーションシップ1号投資事業有限責任組合 |
ファンド運営事業者 | 日本プライベートエクイティ株式会社 |
事業概要
豊富な人材を強みとするマンション管理代行業
株式会社コミュニティセンター(東京都)は、マンション管理員や清掃員、コンシェルジュの代行業務を請け負う企業だ。
マンション管理業界出身者を含めたシニア人材を中心に、総勢約2000人のスタッフを抱える。手配のスピードはもちろん、徹底した教育とフォロー体制による質の高い清掃業務やコンシェルジュ業務には定評があり、引き合いがますます強まっている。
業界全体で人手不足が深刻化するなか、同社の大きな特長は自社採用の強さだ。ホームページを通じた情報発信などの各施策が奏功し、何百人単位での採用を可能にしている。中川弘規社長は「競合も人手不足にあえぐなかで『あそこには人材がいる』という信頼は大きな強みになっている」と手ごたえを語る。こうしたスタッフ数の多さと質の高さを武器に、4年間で2倍の売上となり、首都圏および関西エリアで、スタッフ数も売上もトップシェアとなった。
中川社長
2023年に創立30年を迎えた業界の先駆的存在。しかし、同社は一度、深刻な事業承継の問題に直面していた。会社がその危機から脱し、再び成長軌道に乗るようになったのは、東京都のファンド事業による支援の一環として代表に迎え入れた中川社長の手腕によるところが大きい。
ファンドとの出会い
目指したのは「社会的な意義のある経営」
かつて、オリックスにて社長室や経営企画などの会社の中核となる仕事を歴任してきた中川社長。金融の世界に身を置きながら数々の経営の現場に伴走し、「人事以外の業務はすべて経験した」(中川社長)。27歳で「将来社長になる」と手帳にしたため、研鑽を積みながらプロ経営者としての道を模索していたという。
現職であるコミュニティセンターの社長というポストが舞い込んできたのは、2020年のこと。48歳での決断だった。複数の選択肢のなかから同社を選んだ背景には「東京都が出資を行っているファンドの支援を受けている」という安心感があったという。
「『株主さえ良ければいい』という経営にはしたくなかった。ファンドから支援を受けている以上、いずれファンドはエグジット(投資回収)をする必要がありますが、東京都が関わっている限りは社会的な意義が残るかたちになるだろうと期待しました」(中川社長)。
船出は決して順風満帆ではなかった。
就任当時は、新型コロナウイルスの感染拡大によって社会は未曽有の混乱に見舞われ、多くの中小企業が進むべき方向を見失っていた時期でもあった。会社の雰囲気もどことなく暗く、自社の強みについて胸を張って語れる社員も少ないと感じた。
しかしその状況は、中川社長の負けん気に火をつけた。「オリックス時代から、企業の変革に携わることが大好きだった。会社の空気をポジティブなものに変え、やりきるしかない。その状況が楽しかった」。
施策は矢継ぎ早に打った。「ビジョン」「ミッション」「バリュー」の策定、「会社ミッション」「部門ミッション」「個人ミッション」の策定、人事評価制度の刷新。かじ取り役として目指す方向を明確に示し、社内への浸透を図った。並行して、企画や戦略立案を担う社長室を全社横断で立ち上げ、市場の変化に対応できる体制を築き上げた。
「1、2年のうちに、会社の雰囲気は前向きなものに変化していった」と、中川社長は振り返る。
ファンド支援による企業の成長と今後の展望
経営は信じて任され、「業界を知る」ための伴走
キャリアで初めて任された、社長というポジション。そのなかで、ファンドとのやりとりも大きな支えになった。
「ファンドに最も感謝しているのは、信用して、任せてくれることでした。お金を出しながら、自分のやり方を見守ってくれていた。それは決して簡単なことではない」。中川社長はおもんぱかる。経営に集中できる環境を整えてくれたからこそ、オリックス時代に培った知見をすべて注ぐことができた。
半面、ファンド担当者を大いに頼った領域もあった。ニッチな「マンション管理員代行業」という業界事情へのキャッチアップだ。競合の動向はどうなっているのか。新規事業の可能性がある分野はどこなのか——。そうした情報の収集では、ファンド担当者が作成した資料に助けられたという。
「『業界を知る』という側面で、ファンドの担当者にはお世話になりました」(中川社長)。
MBOの決断は「会社が持つ社会的意義」
2023年、中川社長はコミュニティセンターのMBO(経営者による企業買収)を実施した。
成長軌道に乗り始めた会社は、事業会社などにM&Aで売却するのが、ファンドのエグジットとしては一般的だ。中川社長がMBOによる経営権の取得を決断した背景にあったのは、就任当初から変わらない「株主のためだけの経営はしない」という志だった。
「当たり前のことを愚直にやるのが経営という仕事だが、かなりのエネルギーが必要。会社に愛着を持っている自分が経営を続けることが、顧客や、社員のためには最善なのではないかと考えた」(中川社長)。
コミュニティセンターのスタッフの平均年齢は、69歳。管理員の代行業務は、週に1日、2日からでも貢献でき、それぞれの健康や生活状況に応じた柔軟な働き方ができる。多くのシニアスタッフにとって、同社は職場であると同時に、ハイキングやゴルフ、麻雀、カラオケといったサークル活動の起点にもなっている。
ハイキングサークルの様子
「定年のない新未来」「健康長寿社会」——。コミュニティセンターが掲げるパーパスには、シニア世代が労働市場でもっと活躍する社会像が盛り込まれている。
「会社は、『顧客に価値を提供する』のと同時に、『社員の雇用を守る』という役割も担っている。金融畑出身者として数字も大切にしているが、承継されるべき会社が承継され、投資を受けるべき会社が投資されることは、社会的にも意義のあることだと思います」(中川社長)。
「会社の社会的な意義」という点で共鳴し合った、社長とファンドの信頼関係。その絆によって守り抜かれた会社が、地域社会に確かな活力を与えている。
ファンド運営者より
東京都のファンド出資事業でファンドの運営を託されたときに目指したのが、「社会的意義」と「投資ビジネス」の両立です。超高齢化社会でコミュニティセンターが展開する事業は、社会にとっても地域にとっても残さないといけない、残すべきという「社会的意義」が、投資支援するという判断の根幹にありました。一方で、「投資ビジネス」という観点で、オーナー経営から脱却し、中小企業でありながらも“開かれた会社”へと“みがきあげ”できるかどうか、収支構造や財務状況、将来性等も総合的に勘案したうえでの投資支援でした。
それから、約3年という時を経て、社外から招聘した経営者が自らオーナーとなってファンドから“卒業”するという、新しい形の事業承継が実現しました。会社に関わるすべての人にとってHappyな事業承継に到ったのは、現場重視の中立的で柔軟なファンド運営が民間に委ねられ、(ファンドへの負の先入観を払拭して余りある)“東京都”という誰もが信頼できる旗印の下、“常に主役である社員”と“意欲溢れる経営者”がファンドを通じて出会い、『いい会社にしよう!』という唯一の目的に向けて一体となることができたから、といえます。
日本プライベートエクイティ株式会社 代表取締役社長 法田真一
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